
「The Happy Pig」 Mixed Mediums Painting 182×225p 1988年
幸せを運ぶブタたち
プラスターパネルに荒縄でデッサンを描き、その上に、石膏を膠(にかわ)で溶いたものを、何層にも塗り固めていく。
彩色する前の純白のブタたちは、光と影でその表情を変え、とても美しい。
「最初の一筆を入れるのは、勇気がいるね」
今泉はそう言いながら、絵の具を散らす。
一度色がついてしまえば、後はご覧の通りである。
次から次に鮮やかな色彩が施されていく。
全身に絵の具の飛まつを浴びて、ブタも人間も床も壁も、もう全く区別がつかない。
あたり一面が絵の具に染まる。
『Happy Pig』と名付けられた作品たちは、その名前とは対照的に、今泉が(作家としてもプライベートな面でも)一番辛い時期に制作したものだった。
気を抜くと沈んでしまいそうな意欲を、何とか上向きにしようと、取りつかれたような勢いで、原色を叩きつけながら彩色していた。
しかし、結局は、大半のブタたちが純白のまま数年の間放置されることとなった。
同じブタの作品でも制作年が違っているのは、彩色をし直した年を制作年として記録しているからである。
「仔豚 JUNE」「仔豚 SOTA」は、今泉が彼の遺児たちをモデルとして彩色し直した作品である。
始めの作品に見られたような鮮やかさはないが、穏やかな優しい気持ちに包まれているのが伝わるような、やわらかい仕上がりになっている。
さて、仔ブタたちには、たくさんの兄弟がいるのだが…我が子をモデルに彩色したもの以外は、そのほとんどの作品が、福岡県久山町の保育園の壁で、子どもたちの成長を見守りながら過ごしている。
幼少の敏感期に、多くの色が身近にあることで、色に対する基本的な感覚が自然と養われていくのだと考えていた今泉は、機会があれば、自分の作品を子どもたちが集う場所に寄贈していた。
久山保育園の園長先生は、今泉の作品のファンとして、またその作品の良き理解者として、今泉が急逝するまでの間、ずっと制作活動を応援してくれていた。
展覧会のたびに先生から寄せられた、作品についての感想や感動の手紙は、今泉にとって大きな励みとなっていたので「この先生の下でなら、仔ブタたちもきっと、本当の幸せを運ぶブタになることが出来るだろう」と、アトリエにあるほとんどの仔ブタたちを先生のいらっしゃる園に寄贈したのである。
今泉がいなくなり、先生からの作品評のお便りも、もう届くことはなくなったが、0歳児から6歳児までの、ぐんぐん空へ向かって伸びていく乳幼児たちを相手に、日々奮闘されながら、園を益々発展されているご様子。
多くの子どもたちが、仔ブタと共に幸せを分かち合えます様に…
ひさやま保育園 杜の郷


「仔豚 JUNE」 Mixed Mediums Painting
21.0×35.7×12.0p 1998年
「仔豚」 Mixed Mediums Painting
21.0×35.7×12.0p 1988年

フ ク ニ チ 新 聞 昭和63年7月9日(土曜日)
