「世界で一番ホームランを打った野球選手」を築き上げたのは、「一本足打法」と呼ばれる独特なフォームである。

それは「ホームラン・サイボーグ」と表現された寸分狂いのないメカニックのようなフォームを、想像を絶する修練で構築し完成させたある種の「芸術品」である。

現在まで王貞治の数字的記録について詳しく検証した文献やサイトは存在したが、技術およびメンタル面に着目したものは殆ど存在しなかった。

王貞治という偉大な打者が、どのような気持でバッターボックスに立っていたのか。そのスイングについての考え方や技術的チェックポイントはどこにあったのか?


過去の文献から、王貞治の「一本足打法」への「こだわりと考え方」をまとめてみた。




【バッターボックスでのファイティングスピリット】


王と対戦した投手達が皆同様に口にするのが
「圧倒される。眼を見ると吸い込まれるような

気がする時がある」
というもの。投手を睨みつけ、打ってやる!という気魄と闘志が

一本足打法の爆発力に結びついていると言っても過言ではない。


「バッターボックスに入ったら絶対に打ってやろう。バックスクリーンに打ち込んでやろう。

と思ってバットを構える。もちろんそれで大振りするということはない。とにかく正しい

スイングでボールを引っ叩くことに専念する。そして、
第一球から打っていく気魄を持って

いなければいけない
」。と、持てる技術を発揮する為に必要なものは「気持ち」だと王は説く。


「こっちはバッターだから、打席に入ったら打てるのが当然だと思わなければ・・・。

バッターはピッチャーのボールを待ち構えている。そこに投げ込まれて打てないわけがない。

そのピッチャーの一番速いボールに遅れないようにするのはタイミングもあるけど、
やはり

ファイティング・スピリットだろう
」。とも語る。


「バッターボックスに入ったら、
自分が世界一のバッターだ。と思う事にしている。

誰にも負けないんだ。そう思う事で力一杯のスイングが出来る」。と王は語る。

バッターボックスでの「気迫」。それは練習に裏付けされたプライドと言える。

「自分は他の選手とは違うスペシャリストなのだ。王貞治の力と誇りを維持する為に

考えられる全ての準備を怠ることなく積んできたのだ・・・」その「プライド」こそが

「一本足打法」を支えた源であった。





王自身が1980年に引退した直後に執筆した自叙伝
「回想」には、「引退に至った理由」について次のような一文がある。


「かれこれ十年来、私は『好きな言葉を書いてください』と頼まれると”努力”という二文字を書いてきた。

ところが今シーズン(※1980年)の後半にはこの”努力”という言葉が書けなくなっていたのだ。そして努力という言葉にとって替わって”気魄”という言葉が私の胸を占領していた。

(中略) 野球とはピッチャーとバッターの喧嘩である。それも一瞬の勝負だ。バッターボックスで考えていたら、バッターは終わりである。

人間の身体を動かす原動力は、気持ち、気力だと今でも私は信じているが、その気持ちそのものが萎んでしまったのだからどうしようもない。



このように、引退については
「体力的なもの」より「気持ち」の問題がもっとも大きい。と王は考えていた。


また、別のあるインタビューでは


「もしハンク・アーロンの世界記録が868本(実際は755本)だったら、自分は石に噛り付いても1000本打つまで辞めなかっただろう」とも語っている。


これらのことは野球選手には技術以外の要素も必要であることを端的に示している。



王流「一本足打法」とは、類稀な
気魄と闘争心」に支えられていたのだ。




                                                 


一本足打法全解剖