No.6 松坂大輔を考える!
| 松坂 大輔(26歳・西武)投手 182/85 右/右 (横浜高校出身) |
「けして理想型ではなかった・・・」 松坂大輔と言えば、高校野球の歴史に名を残す伝説の投手とすでに化している。日本人なら誰しもが、その名前を知る野球選手だと言えよう。まずは簡単に松坂大輔の入団以来の実績を記してみたい。 1999年 16勝 5敗 防御率 2.60 2000年 14勝 7敗 防御率 3.97 2001年 15勝15敗 防御率 3.60 2002年 6勝 2敗 防御率 3.68 2003年 16勝 7敗 防御率 2.83 2004年 10勝 6敗 防御率 2.90 2005年 14勝13敗 防御率 2.30 まさに入団以来、怪我で離脱した2002年を除けば、高卒入団以来二桁勝利を続ける驚異の実績の持ち主だ。間違いなく戦後プロ野球史に残る選手であり、私が迷スカウト活動を行ってからも、最高の高卒投手である。4歳上で同期入団の上原浩治と比べても、通算勝ち星は僅か3勝少ないだけ。このまま行けば、通算成績では上原を上回ることはほぼ間違いない。 (松坂は理想型ではなかった・・・) 私が野球技術に興味を目覚めたきっかけとなったのは、「ピッチング解体振書」(手塚一志・光文社)と言う書物である。本著のピッチング理論は、あの松坂大輔のフォームを理想に後から理由をくっつけたのではないかと思う程である。同著の中では、プロ野球投手のフォームで最高の得点をマークする程、理想的なフォームとされている松坂大輔の投球フォーム。しかし私は、この本を読んでから、その後も様々な技術本を読みあさり、一つ一つの動作の真意を確かめるべく、何百・何千と言う野球選手達を対象に、その理論が正しいかどうか当てはめ検証してきた。また私自身も、その動作を実戦することで動作の持つ意味を肌で実感する作業を続けてきた。その中で世の中に存在する技術論の一つ一つを検証するうちに、どれがスカウティングに使えるのかどうか、少しずつわかってきたのである。そのため現在の私の技術論は、手塚理論をベースにしていても、かなりそのニュアンスは異なり、独自にアレンジしたものを加えつつ、オリジナリティ溢れるものに変化していった。こういった技術分析を続けるうちに、独自の蔵理論は構築されていった。そこで今回は、高校以来初めて松坂大輔を分析するに至ったのである。その結果、けして松坂大輔のフォームが私の理想ではないことに気付き始めたのだ。 (投球分析) 昨日放送されたWBC一次予選・対台湾戦の投球から、最新の彼の投球を分析してみよう。 ストレート 常時142〜MAX149キロ スライダー 120キロ台後半 チェンジアップ 125〜129キロ カットボール 135〜140キロ弱 フォーク 125キロ前後 平均球速差 15キロ〜20キロぐらい 松坂のピッチングスタイルは、常時145キロ前後の球威と勢いのある速球を高めに集め、変化球を真ん中から低めに集める高低の球筋。変化球は、スライダーやカットボールを主とした横の変化を得意としている投手である。またタイミングを外す球は、チェンジアップ。本当の意味で緩急を効かせるブレーキの効いたカーブや空振りを誘うフォークと言う球種は、ほぼ大事な場面で投げてはこない。投球の多くは、球速差20キロ以内で勝負する単調なピッチングスタイルで、これでも打者を仕留められると言うことは、よほど一つ一つの球の威力が優れている投手だから成せる技なのだろう。 この辺が、私の投球の理想とする、カーブで緩急を、フォークで空振りをと言う、蔵の理想論と異なる第一の要因となる。速球・スライダー・チェンジアップと言う、球速豊な変化球で勝負するタイプする投手なのである。 <右打者に対しての攻め> ☆☆☆ 高校時代から松坂のピッチングで気になったのは、速球が真ん中〜高めにアバウトに集まる点であった。今回のチェックでも、松坂の殆どの速球は、かなり高いところに集まっていたし、たまにコースギリギリや低めに来た球は、みなボールゾーンに散ってしまっていたのだ。ただこれは、正直それほど問題ではない。松坂レベルの球威・球速があるのであれば、返ってその方が速球の威力が増すからである。ただしその球を活かすためには、一つ大きな条件が必要なのだ。 その条件とは、変化球は低めに集まること。その点、松坂のスライダーは、真ん中から低めに集まることで、高めの速球と低めのスライダーをより効果的に彩ることになる。右打者には、速球・スライダー・カットボールの配球となり、基本はアウトコース中心の配球となる。インハイを突くこともあるが、コースをきっちり投げ別けるタイプではなく、球の威力で勝負するタイプなのだ。そのため攻めのコンビネーションは、意外に少ない投手だと言えよう。またそのコントロールも、プロ野球選手としては、かなりアバウトな方だと言えるのだ。それでも抑えてしまうのは、松坂の一つ一つの球の威力が図抜けているからに他ならない。 <左打者への攻め> ☆☆☆☆ むしろ興味深いのは、松坂の場合、右打者よりも左打者に対しての方がコースをしっかり投げ別けることが出来ている点である。多くの右投手は、左打者への制球を乱すケースが多い。しかし松坂はそうではないのだ。 ただしアウトコース高め、松坂にとっては逆クロスの球筋の速球は、ボールゾーンに抜けてしまうケースも多い。それでもチェンジアップを効果的に使うことで、上手く投球を整えている。またインハイには、速球やカットボールを見せつけることで、外の球をより活かしているのだ。これは、右打者にはあまり観られない傾向である。 ただし、やや開きの早い松坂のフォームでは、球筋を長く観られる左打者の方が、恐らく松坂は苦手にしているのではないのだろうか。また左打者は懐を空けて打つ選手も多いので、内角の球を巻き込まれて長打を打たれる可能性も高い。松坂レベルの球を長打出来る可能性が高いのは左打者、制球がアバウトで連打出来る可能性が高いのは右打者の方ではないのだろうか。 (投球のまとめ) 松坂は、右打者には速球とスライダーを。左打者には速球とチェンジアップで投球を組み立てて来る。右打者にはアバウトな制球力が、左打者には身体の開きの速さが課題としてあげられる。私の理想論と異なる第二の理由は、制球力がアバウトで球の威力で勝負するタイプだからだ。真のエースならば、相手に一点も与えられない投手戦を演じることも少なくない。そんな時に、松坂は手痛い一球で泣くことが多い印象が私にはある。その理由は、他ならぬコントロールミスに要因があると言えよう。 (フォーム分析) それでは何故、松坂の制球力はアバウトなのか、フォームを分析して考えてみたい。 <踏みだし> ☆☆☆☆ 足の引き方は、オールドタイプを継承! 写真1は、松坂大輔投手がワインドアップで振りかぶった時のものである。まずは足元に注目して欲しい。意外な程、松坂は両足の横幅を取っていないことがわかる。通常、この横幅を取らないと、バランスが悪く、その後の投球フォームに大きな影響を及ぼす。この点ではあまり評価出来ない。しかし今度は、両足の縦幅の違いに注目して欲しい。今時珍しく、松坂は片方の足を引いて立っているのだ。これは大きなエネルギーを無理なく導き出すのに重要な動作になる。180センチそこそこの松坂が、日本球界屈指のスピードボールを投げられる一つの秘密が、ここにあると観る。 写真2の位置まで足をゆっくり回し込んで引き上げて来る。けして大きな反動を付けて投げ込む力投派ではない。足の引きあげの高さはまずまずで、エネルギーをしっかり導き出している。 写真1 写真2 ![]() <軸足への乗せとバランス> ☆☆☆☆ バランスの悪さを、ここで修正! 写真2は、足を引き上げて軸足一本で立っている場面である。まずは軸足(写真左足)の膝に注目して欲しい。膝から上が適度に傾き、ピンと膝が伸びきっていないのがおわかりだろう。軸足の膝がピンと伸びてしまうと 1,フォームに余計な力が入り力みにつながる 2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい 3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い などの問題が生じる。 実は松坂は、これよりちょっと前の段階までは膝がピンと伸び気味なのだ。しかしこの段階になると、引き上げた足(写真右足)を、二塁側(観ている我々の方向に)に送り込むことで、身体の突っ込みを修正しバランスを整えているのである。これにより軸足一本で立った時のバランスをとり、軸足の股関節にしっかり体重が乗せることが出来ているのだ。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆☆ お尻の落としと粘りももう一息。 写真3では、お尻を一塁側(右投手の場合)に落としたものである。やや引き上げた足が、地面に向かって伸びているために、お尻の一塁側の落としは完璧と言う程ではない(勿論悪くはないが)。お尻を一塁側に落とす意味としては 身体をしっかり捻り出すスペースを確保して、ブレーキの好いカーブや縦に落ちる変化球を投げるための充分なスペースと時間を確保する意味がある。 あえて松坂が、カーブとフォークを武器にせず、他の変化球を主体として投球を組み立てる理由には、この動作が、完璧ではないからかもしれない。ただしむしろフォームで大切なのは、着地のタイミングと、それまでの粘りである。着地を遅らせる意味としては 1,打者が「イチ・ニ〜の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ〜の」の粘りこそが、投球動作の核となる。 2,軸足(写真後ろ足)〜踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。 3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放られる下地になる。 などがある。松坂の場合、写真4の着地の時点で後ろ足の陰に隠れる位置まで、着地を遅らせることが出来ている。高校時代は、恐らくここまで着地を粘らせることは出来ておらず、もっと上半身に頼ったフォームであったはずだ。 ただし、それでも地面に着くまでのタイミングを観ていると、もの凄く下半身が粘るタイプだとは感じない。そのため少しフォームが「ニ〜の」の粘りに欠け単調な印象が私には残ってしまう。 写真3 写真4 ![]() <グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆ 足の甲の粘りがもっと出てくると・・・ 今度は、写真5のグラブの位置に注目して欲しい。写真6の投げ終わった後でも、グラブを最後まで身体の近くに添えていられている。 グラブを抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐことでコーナーへの制球力は安定する。 松坂の制球力がアバウトなのは、他の部分に原因があるのではないのか。次は、写真5の右足スパイクに注目して欲しい。足の甲でしっかり地面を押し付けているように見える。しかし実際のところ、松坂の地面の押し付けの時間は、実に短く、浅いのである。この写真は、足の甲を押し付けている一瞬を捉えているものである。足の甲を地面に押し付ける意味として 1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ 2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える などの働きがある。松坂の球が上吊りやすい要因の一つに、この部分の粘りの無さがあげられる。松坂のフォームが、上半身主導に見えるのも、恐らくこの部分から感じられるのだろう。 写真5 写真6 ![]() <球の行方> ☆☆☆ もう少し開きを遅く出来れば・・・ 写真7では、グラブを斜め前に突き出すことで(多少低いが)、球を長く隠すことが出来ている。ただし、写真8の着地のタイミングの際のボールを持っている腕の位置をみると、比較的開きが早いことがわかる。そう私の理想と異なる第三の理由は、身体の開きが比較的早い部分である。 写真8では、テイクバックした際に、前の肩と後ろの肩を結ぶラインよりも、少し肘が下がってしまっている。松坂のテイクバックをみると、少々球を押し出すように見える。こうなると肩への負担や球質を低下させる要因・もしくは球が浮き上がる要因にもなりかねない。やや松坂は低い位置から高い位置にテイクバックを持ってくる傾向にあり、これが球を上吊らす一つの要因になっているかもしれない。出来れば、テイクバックの際に、両肩を結ぶラインよりも肘を高い位置に引き上げておきたい。 写真7 写真8 ![]() 写真9の松坂と写真10の上原のリリースを見比べて欲しい。腕の角度は好く似た角度であることがわかる。一見みると二人のリリースは非常に似て見える。しかしよ〜く二人の右肘を観て欲しい。上原の方が、ユニフォームにシワが生じ、腕がしなりよりボールが前で離せているのがおわかりだろうか。更にわかりやすいのは、後ろのDRYの看板と見比べると、二人がどの位置でボールを放しているのかわかることになる。 松坂も指先までボールをひっかけることまで出来ている。けして球持ちは悪くない。しかし松坂の方が身体から遠いところで、腕をブンと振って上体の力で投げていることがおわかりだろうか。ボールを長く持ち、身体の近くでリリースする意味としては 1,打者からタイミングが計りにくい 2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる 3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい などがあげられる。どうしても腕がしならずに、ブンと身体の遠くでリリースするタイプは、制球力がアバウトになりやすいのだ。上体の力で投げ込む投手は、この傾向が強い。松坂の制球のアバウトの一番の要因は、このリリースに問題があると私は考える。 写真9 写真10 ![]() <軸> ☆☆☆ もう少し地面を強く蹴り上げられるようになりたい 写真11では、振りおろした腕が身体に絡みついているところである。腕を角度好く振り抜けた証だろう。ただ右足の蹴り上げは意外に小さい。これは、足の甲での押し付けも甘く、どちらかと言うと上体の力で投げ、下半身のエネルギー伝達が乏しいからだろう。ただ投げ終わった後のバランスは悪くない。 写真11 ![]() フォーム点数合計 21/30点 (最後に) 別に各点数の合計が高いからと言って、それがイコール好い効果を示すかは別だが、一応各項目5点満点×6項目で点数を記してみた。そうすると松坂のフォームは21点となり、けして理想型と呼べる程ではないことがわかる。そう松坂は、技術に優れた実戦派と言うよりは、極めて優れた資質で押す才能型投手なのだ。 今の球威・球速を維持出来ている間は、今のままでも充分だろう。ただし松坂の速球に陰りが見えるようになった時、あるいはよりパワーのあるメジャーの打者を相手にするとき、より松坂には実戦的な術を磨くべき段階に入って来るだろう。今の球の威力に、技術を兼ね備えた時 「日本の松坂から、世界の松坂に進化した時だ!」 (2006年 3月5日更新) |