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西川 純司(三重中京大)投手 181/68 左/左 (八幡商出身)



               「本当に調子が悪かっただけなのだろうか?」



 神宮大会東海地区代表決定戦が行われている愛知の瑞穂球場に、プロ6球団が注目するという西川 純司投手を観に足を運んだ。バックネット裏には複数球団のスカウト達が、負ければ彼の学生生活最後の登板となる投球を観に顔を揃える。

 実は西川の所属する三重学生野球連盟は、リーグ戦を優勝しただけでは、この東海地区代表決定戦に出場出来ない。その前に、静岡学生野球連盟・岐阜学生野球連盟の各リーグ戦覇者との対戦に勝って初めて東海地区の神宮大会代表決定を賭けた予選に出場出来るのだ。いうならば、日本一神宮大会までの道のりの遠いブロックに所属する選手だと言えよう。西川は、故障のためこの三つのリーグとの東海地区代表決定戦に出場するための決定戦で、久々の復帰登板を果たしたばかりだったのである。そしてチームは、後一つ勝てば神宮へ王手というところまで、勝ち上がっていた。


(西川 純司ってどんな投手?)

 細身で手足の長いスラッとした投手体型がまず目を引く。ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んで来る(制球に不安があるのだろうか)。計測した球速は、常時78マイル(125キロ)〜83マイル(133キロ)程度と、故障明けとは言え、かなり物足りない球速である。それ以上に気になるのは球質。元々キレのある球が身上なのだろう、球がキレないと単に球威に欠ける軽い球にしか見えない。

 変化球は、カーブやスライダーなどを織り交ぜつつ、右打者の懐に食い込んで来る、左投手特有の内角クロスへ徹底的に投げ込む投球が身上だ。それでも、それほど甘いコースだとは思えない球を、スコンスコン振り抜かれるのは何故だろうか?単に球が走っていなく調子が悪いだけなのだろうか?その疑問について考えて行きたい。



(投球フォーム)


<踏みだし> 
☆☆

 写真1は、西川投手がセットポジションで構えた時のものである。セットポジションということもあり、両足のスタンス幅は狭く、両足が揃えて立っている。当然大きな反発力は期待出来ない構えである。写真2では、足を引き上げているのだが、相当二塁側に足を送り込んで身体に捻りを加えている。足を引き上げる時の勢い、高さは物足りなく比較的大人しい感じで入って行くフォームだと言えよう。

写真1              写真2
 

<軸足への乗せとバランス> 
☆☆☆

 まず写真2の軸足(左足)の膝に注目して欲しい。膝がピンと伸びきることなく余裕があるのが好い。膝から伸びきってしまう弊害として

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い


 などがあげられるが、西川の場合はそういった問題は生じ難い。かなり引き上げた足に捻りを加えることで、球の出所を早めに隠したり、身体が突っ込むのを防ぐ働きもある。全体的なバランスは好いとは思わないが、軸足への体重の乗せは、そこそこだろう。

<お尻の落としと着地> 
☆☆☆

写真3


 引き上げた足を二塁側に送り過ぎてしまうと、どうしてもお尻が三塁側(左投手の場合は)に落ちず、バッテリーライン上に残りやすい。また写真3のようにピンと足を伸ばした時に、足が地面に向けて伸びてしまっているのも、そうなりやすいのだ。

 お尻をしっかり三塁側(左投手の場合)に落とせないとどうなるか?身体を捻り出すスペースが確保出来ていないのだ。そうするとカーブなどの緩急の効いた球をしっかり投げにくいフォーム(投げられても見分けられやすい)、腕が縦から振り抜き難いので、フォークなどの縦系の球種を修得し難いフォームになる。将来的に観て、緩急が使えない、プロで不可欠な縦の変化が身に付けられない危険性に陥るのだ。またこういった投手が、無理にこういった変化球を投げようとすると、故障の原因になりやすい。


 ただしある程度お尻の落としが甘くても、そこそこの変化球を投げることは可能である。それは、着地のタイミングが早すぎないことなのだ。着地の時間を稼ぐ意味は、

1,打者が「イチ・ニ〜の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ〜の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)〜踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放られる下地になる

などがあげられるからだ。西川投手の場合、この着地のタイミング・スタンス幅は悪くないので、そこそこの変化球が投げられるのだろう。

写真4              写真5              写真6
  

<グラブの抱えと軸足の粘り> 
☆☆☆☆

 まず写真5と6のグラブの位置に注目して欲しい。グラブを胸元に抱え、写真6の投げ終わった後に、多少後ろに抜けそうにはなっているが、ある程度身体の近くに留めることが出来ている。グラブを身体の近くに添える意味として

           外に逃げる遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ意味がある。

これにより両サイドの制球力が安定しやすい。


 今度は、写真4と5の写真後ろ足に注目して欲しい。軸足(前足)の陰に隠れてしまい見づらいのだが、足の甲である程度地面を押し付けることは出来ている。足の甲で地面を押し付ける意味として

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などがあげられる。ある程度の制球を司るこの二つの動作は悪くない。


<球の行方> 
☆☆☆

 写真7で、グラブを高く斜め前に差し出してフォームをリードしている。前の肩と後ろの肩を結ぶラインが、非常に打者から斜めになることで、球の出所を長く隠すことになる。写真8のように、前肩が開き始めても、ボールを持った腕はしっかり背中越しにあり、球の出所は遅いタイプではあるだろう。

 写真9を観ても腕の角度は悪くない。もっとスリークオーター気味のフォームなのかなと思っていたが、かなり本格派なのがわかる。球にも角度があってけして悪くない。

 
問題はリリースにある。写真9は、リリースの瞬間を捉えたものである。腕が充分しなって柔らかいのがわかる。しかしリリースは、これ以上遅い写真では指先から離れているのである。つまりこれが、ボールを持っていられるギリギリのラインなのだ。すなわち球離れが非常に早いことはわかるのである。球を長く持つことの意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい


などの効果がある。
西川のフォームの最大の課題は、まさにここにあると言えるであろう。

写真7              写真8              写真9
  


<フィニッシュ> 
☆☆☆

 写真10を観て頂けるとわかると思うが、長い腕を振りおろした後身体に絡みついている。これは、腕の角度が好いか球持ちが好いことを示している。彼の場合は、角度が好いのだろう。

 写真10の右足の蹴り上げを観て欲しい。あまり体重が乗って高く蹴り上がっているわけではないようだ。ただこの映像自体が、投球練習時のものだということ、球が走らない時の西川のものであることからも、それほど悲観することはないだろう。

写真10



 確かに長期休養明け、それも爪を痛めていたことは試合中の仕草からも窺われた。そのため、彼の本調子からは程遠かったのは確かなのだろう。しかし問題は、それだけなのだろうか?

調子が悪い時ほど、その投手の本質が垣間見られるものなのだ。それは何故か?

1,球が走らなくても、制球や変化球で交わす能力があるのか

2,フォーム自体、タイミングが合わせやすいものなのか

3,どういった性格の持ち主なのか

この三つの点が如実に表れてくるからだ。悪いなら悪いなりの投球と言うものがあるのである。そうでなければ、プロの世界などでは、常に身体の何処かを痛めて野球を続けて行く選手がほとんどなのだ。ましてやアマチュア時代から故障に泣かされる選手は、その可能性は飛躍的に高くなる。プロの世界で成績をあげるのには、悪い時に悪いなりの投球ができることが最も大事なのだ!

 西川をまず観て思ったのは、球威・球速不足。これは、調子にも左右されるので、今回の観戦では多少は大目に見てみたい。しかし1の制球力・変化球で交わす能力はどうか?速球が走らなければ、それを補う変化球や制球力がないことは間違いないようだ。申し訳ないが大学生相手にこれが出来ない選手が、プロの打者相手に誤魔化すことなど出来るはずもない。

 相手打者が面白いようにバットを振り抜いていたことからも、それほどフォームや球筋に嫌らしさはないように思える。攻め自体も未熟で、それほど嫌らしさや厳しさは感じない。そのため打ち難さと言った観点でも高く評価することは出来ない。

 最後に精神面である。ある意味投手らしい性格ではあるのだろうが、非常に神経質な印象を受ける。応援サイドに、笑い声が聞こえたら笑うなと注意をしたり、打たれたら明らかに表に出る感情などを観ても掴み取ることが出来る。ストイックなまでの性格の選手は投手らしいとは思えるが、周りのナインはピリピリムードでは、エラーを誘ったり、打線が萎縮しやすいのだ。横浜の三浦大輔が、投球内容の割に勝ち星があげられない理由などがここにある。野球は、投手だけでやっているスポーツではない。もっと周りが見られる視野を持ちたいものである。


(最後に)

 彼本来の投球がどこにあろうとも、まず本調子を取り戻すことが大事だと考える。もう少し高いレベルでの野球を経験してからでも、プロに入るのは好いのではないかと思うのである。プロ側は、左腕だと言うことで驚くほどそのハードルを低く設定しがちだが、実戦力に欠ける大学・社会人左腕が、プロで大成した例など私は知らない。まずは、社会人レベルで文句なしの投球を示す・体調が万全であることを示す その時こそ、彼がプロに入るべき「旬の時期なのではないのだろうか。2,3年でクビになる若者達を観ると、プロ入りのタイミングとは何よりも大切なことを実感する。そして結果が残せなかった若者達に対し、プロはあまりにも冷たい・・・


(2005年 11月11日更新)