ディジタルICで作るラジオ
その2

1. シンクロダイン受信機の次は?

HCU04を使って中波のシンクロダイン受信機(「ディジタルICで作るラジオ(5)」)を作りました。エンベロープ(包絡線)検波におけるゲルマラジオのような、同期検波における最小構成のラジオです。予想以上にいい音が出るラジオができたのはよかったのですが、いくつか反省点がありました。

・作りにくい

私自身、PLL周りはまだ勉強中です。作ってみたいとおっしゃっていただいた方もいましたが、たぶん手こずっている/いたことでしょう。

・AGCがない

・ロックが外れやすく、持ち運びに不向き

音は高級チューナー以上ですが、実用性は6石スーパー未満でした。

というわけで、もう少し普通に使える受信機を目指すことにしました。

2. HCU04でスーパーヘテロダイン受信機は作れるか?

シンクロダインの反省を基づいて、次はスーパーヘテロダイン+同期検波をめざしました。

スーパーヘテロダインにすると、次のような利点が生まれると思われます。
今回の目的はスーパーヘテロダインが作れるかどうかを試すことなので、局部発振のディジタル化はしません(将来的にはぜひチャレンジしたいと思っています)。SONYのICF-EX5 mk2のようなアナログチューニング+同期検波のラジオを目指します。

3. 引き込み式同期検波回路の実験

同期検波はIFで使います。今回は引き込み同期式を使ってみることにしました(PLLは勉強中なので)。非常にシンプルで、発振器に適度なレベルの信号を注入し、同期させる方法です。この形式は真空管式シンクロダイン受信機でも使われている、古典的なものです。

実験に使った回路を示します。入力は455kHz、電源は3Vです。455kHzのセラミック発振子を使っています。


発振器からIFへ信号が逆流しないように、バッファを通す必要があります。また、引き込み式の場合、出力の振幅が入力の影響を受けます(参考)。そのため、同期検波にプロダクト検波のようなアナログの掛け算を使えません(前述の真空管式シンクロダイン受信機でもダイオードDBMでスイッチングしている)。この回路では方形波を発振し、アナログスイッチでスイッチングしているので、影響は受けません。

ポケットラジオからIFを取り出してつなぎ、実験しました。発振器の入力に結合するコンデンサC5は入力のレベルに応じて調整する必要があります。理論的に適切な値を求めることもできる(本当?)と思いますが、コンデンサを取り替えながら試してみました。47pFでは同期がかかりにくく、BFOでAMを聞いている感じになり、ゼロビートを取って維持するのは困難でした。100pFあたりから何とか使えるようになり、220pF〜330pFあたりが適当な値でした(これは、実験条件、特に入力レベルによって変わると思います)。

補足ですが、シンクロダインの時の経験から言って、ゲート間のクロストークがあるので、発振回路とIF信号を扱うHCU04を分けておく必要があります。

4. スーパーヘテロダイン受信機の設計と試作

試作した回路をまず示します。同期検波以降の低周波部分はシンクロダインの流用です。パワーアンプにはゲート1つしか回せませんでしたが、。ヘッドフォンには十分でした。


(動作したものを参考として示しますが、保証はしません。)

L1、L2とVCは普通のトランジスタラジオ用の組み合わせを使います。バリコンの片側をGNDに落とす必要があるので、局部発振回路はシンクロダインと同様のフランクリン発振回路を使っています。

セラミックフィルタCF1はなるべく帯域幅の広いものを用います。R5とR6はセラミックフィルタのインピーダンス(1.5kΩ)に合わせます。

AGCにはトランジスタを組み合わせてみました。6石トランジスタラジオで使われているようなバイアスを変化させる高周波増幅器ではなく、HCU04アンプの帰還路に入れる方法を試してみました。出力の平均の電圧も変動しますが、ゲインをコントロールできます。LTSpiceのシミュレーションによれば、トランジスタが導通状態になるとゲインが急に下がる、シャープカットオフな特性を持っています。

試作機をaitendoのラジオ用ユニバーサル基板に組んでみました。この基板は思ったより不便で、使いにくいです。取り付けられるポリバリコンが限られるうえ、ポリバリコン用の平たいつまみを付けようとすると配線と干渉しやすくくなり、取り回しに気を使います。2度と使うことはないでしょう。


試行錯誤の跡が痛々しいです。ところどころ空中配線になってしまいました。

回路図のCP1は包絡線検波の出力で、セラミックイヤホンで音声をモニタできます。CP2ではAGC電圧を確認できます。調整方法は一般的な(シングル)スーパーヘテロダイン受信機と同じで、低い周波数でLを、高い周波数でC(トリマ)を調整、これを何回か繰り返します。

(追記:2012/9/28)
このラジオの音のサンプルを示します(たぶんTBSの交通情報のバックの音楽)。ICR-RS110MF-Sで44.1kHz 16bit PCMで録音したものです。同じ曲ではありませんが、ICR-RS110MF-S内蔵のAMラジオはこんな音がします(標準的なAMラジオの音だと思います)。ヘッドフォンで聞くと、違いがよくわかります。

(追記:2012/10/8)
試作基板をそのまま箱詰めしました。基板を作っている間は実装することを考えていなかったので、むだに大きく、あまり機能的ではありません。ケースはタカチのSGM-135A(外寸135mm x 90mm x 35mm)で、新品だと思って買ってきたら結構焼けていることに気が付きました(下はシンクロダイン受信機。ケースはタカチのSW-95S)。


(追記:2012/10/10)
消費電流は7.8mAでした。シンクロダイン受信機の方が10mAと消費電流が大きいのは、扱っている周波数がずっと高いため(局部発振の周波数は受信周波数の4倍)と思われます。

5. 結果

このラジオの製作結果は次のとおりです。

・シンクロダイン受信機に比べると、作りやすい

シンクロダインと比べると非常に作りやすいです。6石スーパーを自作して調整できるだけの技量を持った人なら、苦労せずに鳴らすことができるはずです。再現性は高いと思います。

(追記:2012/10/8)
先に局部発振の周波数範囲を中波帯全域(520〜1650kHz、AMナローバンド)をカバーできるように調整しておくと、アンテナ側の調整が楽になります。ただHCU04の入力容量は結構大きいようで、バリコンによっては中波帯全域をカバーできないかもしれません。逆に今回のユニバーサル基板に適合するバリコンはAMワイドバンド用だったので、520〜1750kHz用に調整する必要がありました。

・シンクロダイン受信機に迫るいい音が出る

これはIFの帯域幅に関わることですが、帯域幅の広いセラミックフィルタを使えば、低域から高域までフラットに出て、非常にいい音が出せます。今回は村田の6素子のセラミックフィルタCFW455KBのYタイプ(帯域幅±15kHz、群遅延特性がフラットなAV機器用)を用いました。

(追記:2012/9/28)
シンクロダイン受信機とは多少違う性格を持っているようで、シンクロダインの方が高い周波数のレベルが高く、「キラキラ」した感じの音です(音のサンプルを比べてみてください)。このラジオではセラミックフィルタの特性が反映しているのでしょう。

(追記:2012/10/8)
シンクロダイン受信機に比べて、バックのノイズがやや大きいようです。それでも市販のAMラジオに比べるとノイズは少ないです(これに勝てるのはICR-RS110MF-Sぐらい)。

・6石スーパー程度の実用性

ロックが安定しており、使いやすくなりました。
AGCが働いて、アンテナの向きを変えても音量が大きく変わることもありません。前述の回路図でいうと、CP2の電圧(AGC電圧)は0.75Vあたりで安定しています。6石スーパー程度の実用性はあります。

・局間が静かでない/モーターボーディングノイズが出る

同調している間はきれいに放送が入りますが、同調がずれて同期がかからなくなるとシンクロダインと同様にホイッスリングノイズ(ビューンという音)が出ます。

もっと厄介なのは局間で「ポポポポポ...」というモーターボーディングノイズが出ることです。同調すると止まるので、放送を聞くのには支障がありません。

IFアンプがAGC段を含めて2段では感度が足りず3段にしたのですが、モーターボーディングノイズが出るようになりました。AGCが効いていないときの素のゲインが大きすぎるためかと思います。あまり下げるとAGCが生かせないし、どこまでゲインを下げればいいか見極める必要はあるとは思いますが、今のところはほっておいてあります。


(追記:2012/9/30)
レベルが高い割に長く引き回している線をシールド線に替えたら、モーターボーディングノイズが出なくなりました。実装上の問題だったようです。

・HCU04の限界

HCU04はIC内部の電源のインピーダンスが高いようで、素子間のクロストークがあります。ディジタルで使う分には問題ないですが、アナログでは問題になる可能性があります。実際、ボリュームを0に絞っても、ひそひそとかすかに音が聞こえます。U2に同期のために注入している信号から素子の非線形性のために音声信号が現れたものと思われます。一つのHCU04で大きなアナログ信号を複数扱うには注意が必要です。

6. 次は

スーパーヘテロダインにすることで、実用性を得ることができました。「スピーカがなくても実用的なのか?」と言われそうなのですが、ヘッドフォンで聞こえている音は、「300円程度で売っているスピーカ」+「HCU04やLM386のアンプ」では再現できそうもありません。もし付けるとしたらD級アンプを外付けしようかと思っています。

次に必要なのは局部発振のディジタル化(水晶発振+PLL制御)です。シンクロダインに比べて発振器が2つに増えているので、発振器の安定化は必須で、避けて通れません。周波数のずれを同期検波で吸収しようとするのは誤りで、そうしてしまうとフィルタの特性を生かせなくなり、音が歪むことになります。


ラジオ館では

H. Matsuo, 2012/9/23