日本史をみなおす


 わたしは『日本史をみなおす』を2度書きました。一度目(旧版)は、1983年滞在中のインドネシアから、ある月刊雑誌に送稿したものを中心とし、帰国後書き足しました。それから10年経って二度目を書きました。これは2冊本です。1が「地域と文化」、2が「戦争と近代」です。

 参考までに2冊のはしがきと目次を示します。
 『日本史をみなおす』 はしがき目次
 『新編・日本史をみなおす』
    1、地域と文化 1996年
    2、戦争と近代 1997年
   はしがき目次

 次は目下授業で配布しているプリントを整理したものです。
 『偽史倭人伝・日本史をみなおす』
   はしがき目次

旧版 はしがき
 「歴史は現代史である」といったのは、イタリアの 哲学者クロオチェであるが、かれを待たずとも歴史は昔から現代史であった。ヘロドトス、ツキディデスのギリシアの歴史家たちも、中国の正史の撰述者たちもそれぞれの現代史を書き、それを後世に伝えようとし、必要な限度内で過去にさかのぼっていた。歴史家とは何よりも目前に展開する事象を記録し、後世に伝える役目の者であった。その意味で歴史はつねに現代史であり、考現学であり、必要な限度内で考古学(埋蔵物研究の意では ない)であった。その歴史学が本来の姿を離れ、過去を溯ることを自己目的化し、あたかも懐古学のごとくなったのはいつのころからであろうか。一つには明治維新 政府が古代の王家をかつぎだし、そのイデオロギー粉飾(万世一系、天壌無窮云々)をするために、記紀神話の歴史化と歴史の神話化を進めたからであろう。その段階で歴史学は、その神話的ヴェールをはぎ取り、真実の歴史を明らかにするために、必要な限度内で過去にさかのぼるべきであった。そして日本単一民族論、単一文化論、万世一系神話、大和朝廷正統論、「みやこ」中心史観といった虚構をひとつひとつ打ち破るべきであった。しかし実際にはその努力が十分おこなわれず、必要な限度を越えて懐古の域に傾斜し、それをアカデミズムと称してきたのである。
 しかし実際の日本歴史は多元的に展開されている。日本民族はアジア大陸からの移住民の大量の混血によって形成された。そこで形成される国家や社会集団は数十数百とあり、そのなかの最有力集団の大和朝廷がしだいに膨張していったが、その支配が日本列島のすべてを覆ったのは、はるか後年のことである。しかも各地域の相対的な独自性や人々の社会生活や文化の地域的特質まで消滅させることはできなかった。
 最近「地方の時代」とか地域主義という主張がなされている。これは中央集権的な国家・社会体制への批判から生まれたものであるが、この視点から学ぶものが大きい。また民衆史とか庶民史という主張もある。これは権力者中心の歴史から脱し、自分たちの祖先の本当の歴史を掘り起こそうという志向から生まれた。権力者中心の歴史とは、いわゆる王侯将相の歴史である。君主や貴族、将軍や大臣の歴史ではなく、それよりは自分につながる大勢の先祖たちがどのような思いで生き、死んでいったかについてもっと関心が寄せられつつある。これも十分傾聴に値する発想である。
 わたくしはこれらの考えを自分なりに消化しつつ、また最新の研究成果を取り入れて本書を書いた。ここに述べたことは世間一般に流布している通史とは異なっているかも知れぬ。しかしここには歴史の真実があるとわたくしは自負している。
 わたくしは大学で一般教育の日本史を講じているが、率直にいって若い学生諸君の平板な歴史意識に不満をもっている。受験の影響もあろう。古代中世史やせいぜい近世史しか教えられない中学や高校教師たちの責任(ひいてはかれらを育てた大学教師たちの責任)もあろう。しかしそれらを越えて、君たちにぜひ歴史の真実を つかみ取ろうとする努力をしてほしいと思う。
 本書を、怯惰を捨て真実を見つめる勇気をもつ若い学生・高校生諸君に捧げる。

   一九八五年十一月

 

旧版目次
1:日本史と国史
2:米を作らなかった日本人
3:邪馬台国は存在したか
4:渡来人か、「帰化人」か
5:紀元節の虚構
6:イワレヒコの「建国」
7:万世一系の継ぎ目
8:滅びゆく貴族政権と地域国家の形成
9:征夷大将軍の肩書
10:一揆の時代
11:アイヌモシリと琉球王国
12:鎖国の国際的環境
13:飢饉と幕政改革
14:国ざかいの世界
15:世直しの幻想
16:固有の領土とは何か
17:鎖国日本の終末
18:草莽たちの維新
19:日本近代国家の創作
20:「征韓」論の系譜
21:産業革命と「女工哀史」への道
22:明治憲法の制定
23:三つの君が代
24:女の選挙
25:昭和期軍部の形成
26:時代をくぐりぬけた憲法草案
27:神々の輸出
28:勝チ抜クボクラ少国民

 


新版 はしがき
 
   今 、 歴 史 が 面 白 い
 

 一九九五年の青森県三内丸山遺跡の発見は、日本列島の縄紋時代のイメージを一変させた。それだけではなく、近年の多くの考古学上の発見が、原始時代から古代にかけての既成の通念をゆるがせてきた。それとともに、有機化学や遺伝子工学の発展によって、日本人の稲の系譜に新しい照明が加えられ、東アジアの人類史そのものが大きく変わろうとしている。
 中世史においても網野善彦氏らの新鮮な問題提起と、画像史料の新しい解明は、これまた既成のイメージをつきくずしている。近世史では日記や書簡など庶民史料の解読によって、つぎつぎに新しい知見を加えている。どの町村も孤立した存在ではなく、人びとの往来と情報と商品の流通によって、互いに結ばれていたのである。近代史においても、日本の政府機関の情報公開は遅れ気味だが、アメリカとロシアなどの国際的な情報公開と、アジア諸地域の調査研究の高まりによって、歴史の真実がつぎつぎに明るみに出されている。

 しかし憂慮すべきことも多々ある。なにびとにも歴史の解釈は許されるとはいうものの、都合の悪い事実には眼をつぶり、あまりにも身勝手な解釈が横行しすぎている。作家や評論家、あるいは宗教家の勝手な歴史像のおしつけはもとより、マスコミ特有の歴史の切り口にも危惧を感じる。最近では歴史教育の分野でも、授業研究と称していい加減な解釈がのさばってきた。
 国立国会図書館の閲覧カウンターの上には、「真理はわれらを自由にする」という言葉が、日本語とギリシア語で刻まれている。国立国会図書館の創立に尽力し、この言葉の選定にあずかった歴史家羽仁五郎は、なぜ歴史を学ぶのかという問いに答えて、「歴史を学ぶことによってわれわれは軽信という病気にかからないようにすることができる」(「歴史とは何か」)とのべたことがある。「軽信ということは、人類を不幸にするもっとも恐るべき病気のひとつである」とものべている。
 人間がもっともかかりやすい肉体上の病気は風邪であり、風邪は万病の元であるというが、同じように人間がもっともかかりやすい精神上の病気は軽信の病であり、これこそ迷信と狂気、尊大と踞傲の原因である。
 人間は常識すなわち流通観念に頼りやすい。「われわれが流通観念によって見とおしをたてるとわれわれはかならずあやまる」と羽仁はいう。流通観念に対する懐疑こそ人間の精神の進歩をもたらすのである。
 とりあえず政治家、官僚、学者、評論家、作家、宗教家たちの権威や著名度にまどわされないことだ。

 しかし「懐疑は理論の母である」けれども、「懐疑的精神はあらゆる過去を否定 し、未来を信じる。猜疑的精神は、あらゆる過去を信じ、未来を否定する」(「歴史」)ことも留意しなければならない。
 今、歴史が面白い。それは既成の流通観念を打ち破り、混沌とした世界と人生に新たな希望を与えてくれるからである。
 一九八六年に『日本史をみなおす』の旧版を送り出して十年、ここに新版を送る。「地域から撃つ国家の幻想」という視点と方法は変わらないが、理論はより精密に、志はより堅確に練り上げた積もりである。忌憚のない御批判を仰ぎたい。

 

【新版目次】( )内は章末のコラム「歴史と現代」のタイトル

1 地域と文化
  1 日本人はどこから来たか(原モンゴロイドと北方モンゴロイド)
  2 海を越えてきた祖先たち(帰化人と渡来人)
  3 日本文化の東と西(ニッポンとニホン)
  4 天皇制はどこから来たか(元号――皇帝の時間支配)
  5 南海との交易(大交易時代と大航海時代)
  6 万世一系・南北朝・天皇陵(古墳のイメージ――緑と茶色)
  7 中世の自由と差別(一向一揆と山番・森番)
  8 鎖国と海禁(世界への四つの口―松前・対馬・長崎・薩摩)
  9 一七八九年の世界(アイヌモシリと北海道)
  10 武士になりたかった男たち(草莽と偽官軍)
  11 ええじゃないか始まる(御蔭参りと抜け参り)
  12 日本文化の再編成(ヤマザクラとソメイヨシノ)


2  戦争と近代

   13 憲法を作ろうとした青年たち(ある地方の民権百年)
   14 大アジア主義の出発(西郷隆盛の敬天愛人)
   15 象徴の設計(第二外国語の異変)
   16 植民地帝国の成立(銀のしずく降る降るまわりに)(「父祖の築いた北方領土」の虚構)
   17 過去の栄光に酔う老人たち(司馬遼太郎『坂の上の雲』の東郷伝説)(国定教科書)
   18 青春の志の挫折と抵抗(ある村の兵事書類)
   19 陰謀・暗殺・軍刀(甘えと無責任の構造)
   20 虐殺の系譜(歴史修正主義のホロコースト虚偽説)
   21 ゴーサインはだれが出したか(天皇の陰謀)
   22 大東亜共栄圏の虚構(泥酔・高歌・放吟・無作法の限り)
   23 犬死を結果した技術とシステム(不思議な生命判断)
   24 降伏・敗戦・終戦庶民大学三島教室

   あとがき


 『偽史倭人伝・日本史をみなおす』
   はしがき


 目次

1、殺人と国家の発生――「天子ハ大賊」
2、万世一系の偽造――記紀の編集と禁書
3、聖徳太子の創作
4、天と太陽―日の丸と君が代
5、日本史の魅力
6、武士道の虚構――平民道、大和魂
7、日本人の宗教意識
8、明治維新試論
9、伝統の捏造
10、「ええじゃないか」の真相
11、征韓論政変―西郷隆盛の出兵計画
12、「日清戦史」の偽造
13、関東大震災
14、バーデンバーデンの秘密結社
15、エネルギー技術者の侵略主義
16、南京大虐殺の「まぼろし」の「まぼろし」
17、 郷土部隊死屍累々
18
、真っ先に逃げた関東軍
19、 国民学校
20
、新憲法の真実
21、 素晴らしかった焼け跡民主主義
22
、七三一部隊のその後
終章、飛耳長目の歴史学