6年3組物語 第4話

反抗と陥落

「ふーっ…」
 真上に吐き出された煙が、よく晴れた青い空へと消えていく。
「まったくよ…やってられるかってんだよ…」
 いつもの場所でいつもの3人が、この空に似合わないけだるい気持ちを白い煙とともに吐き出していた。

 ここは、普段誰も通らなければ覗き込みもしない、校舎裏の狭い庭。
一応学校の敷地内で高い塀に覆われているため、外部からの目もほとんど気にならない。
表と違って人の立ち入りが少ない上に手入れが行き届いておらず、土の地面は固く荒れてあちこちに雑草も生い茂っている。
裏庭とは名ばかりの、ただの放置された空き地でしかない場所だった。
そんな場所だから、彼らにとってサボリに最適な空間と位置づけられるのは必然だった。

 江崎和則、長村仁、新島伸樹。6年3組の不良男子児童3人組。
彼らはクラスの授業、行事を少しでも面倒臭い、かったるいと感じたときは決まってこの場所に集結、隠れて煙草を吸っている。
いや、この場所に来さえすれば隠れる必要などないも同然だった。
教師が見回りに来るわけでもなし、塀が高いから近隣の住民の目が届くわけでもなし、
6年生の自分たちがここをこういう用途で使っているので、下級生たちも怖がって近寄ってこない。
彼らはここをもはや憩いの場所として、堂々とジュースを飲み、喫煙し、携帯電話でスロットのゲームに興じていた。

「体育だってよ…マジくだらねー。誰が出るかバーカ」
 和則は残り少なくなった煙草を校舎の壁に擦り付けて消し、もう1本取り出して火をつけた。
「お前今度のアレ、買う?」
「買うけど…お前は?」
「俺、先週だいぶ使っちゃって金ねーし…どうせクラスでも買う奴いるから借りてする」
「借りる、だってよ…最初から返す気もねーくせに」
「へへ、まぁな。終わったら金にする。売って」
「つーかお前、俺らで一緒にあれだけ稼いだのにもう金ねーって何やってんだよ大体。無駄遣いすんな」
「しょーがねーだろ、あの人に渡す日だったしよ…おまけに最近値上げしやがってよ」
「マジ?あいつ最近俺らが儲かってんの知ってんじゃね?上だからって足元見やがって…」
「俺たちもちょっと値上げすっか、税金」
「そーするしかねーだろな…で、それで多く稼いでもその分取られるってのが気に入らねーけどな」
 金にする、稼ぐ、税金…就労できるはずでもない年齢の少年たちからは想像しにくい語句が並ぶ会話が続く。
当然、それらは全て悪事に関わる言葉だった。
彼らが今口に入れている飲料や煙草、その他の遊興費はお察しの通り
彼ら自身の不良少年らしい悪質な行為によって生み出された金品で賄われている。
万引き、置引き、自販機荒らし、盗品の売却、などなど…
そして彼らの言う『税金』とは、弱そうな下級生や同級生に暴力をちらつかせては巻き上げる金のことだ。
これが一番効率が良く、彼らにとっては趣味と実益を兼ねられる最高のビジネスだった。

 そして、彼らはもちろん稼ぐだけで終わることはできない。やはり、それより上の人物からの搾取もある。
当然世の中には小学生の彼らよりも喧嘩の強く柄の悪い不良少年はおり、稼いだ全額を自分のものにすることはできず
和則たちは自分が弱い者たちをゆすって奪い取ったのと同じような『税金』を納める義務を負っているのだ。
『納税』のために、狩りをしたくないときでもしなければならないことだってある。
そのために、さらに弱い者たちが泣かされることとなる…
一方で、この納税をきっちりとこなしていればそれに見合った見返りもある。
この市内全体に影響力を持つ不良少年グループに、優先して構成員に迎えられるという見返りが。
そこには市内やその近辺に住む『選りすぐり』の中高生、またはそれと同じ年代の労働者や無職の若者が多数在籍している。
幾多の抗争を経て数年前に市内統一を果たしたこのグループのメンバーでない不良少年が市内で大きな顔をすることは
このグループへの挑発行為とみなされ徹底的に潰されると言われている。
なので、和則たちのような少年はこんな年齢のうちから、
少々の危険を考慮に入れてでも悪事に手を染め先輩からの好感度アップのためにいい働きをしなければならないと考える。
「もうちょっと我慢すりゃ、俺らの後輩も稼ぐようになるんだからよ」
「あそこのメンバーになれれば下が進んで上納金入れてくるから、楽になんじゃね?」
「そうだよな…」
 どこの街にも程度の差こそあれ、こういった不良少年のピラミッド型社会は存在している。
下からのし上がるために、決意を新たにする3人組だった。

「こらっ、あんたたち!!」
「あ?」
 普段なら自分たち以外はまず立ち入ることのないこの場所に、場違いな存在が現れた。
ザッと足音を立ててその場に踏み入ってきた、小学生にしてはやや大きなレベルの人影。
6年3組、小野美由紀だった。体育の時間は、終了したらしい。
体操服と紺色ブルマ姿のままの美由紀が、コンクリート製の犬走りに座り込む3人の下へと歩み寄ってくる。
「こんなところで何をしているの!?いつも授業にもまともに出もしないで、サボってばっかり!!」
「うるっせぇな…」
 クラスで体育委員を務める熱血タイプの少女・美由紀にとってこういう存在は許せない。
一方、今日に限って面倒な奴が現れたと、和則、仁、伸樹はそろって煙たそうな表情を浮かべた。
一様に煙草を指に挟んでいる3人を前に、美由紀も本当の意味で煙たい顔をする。
「何を考えてるの、小学生で!!その煙草を捨てなさい!!」
「うるせえんだよ、バカ。おい、行こうぜ」
「お前みたいな大声で騒がれたら、他の奴も来ちまうだろ。せっかくの休憩所が使えなくなったらお前のせいだぞ」
「大体テメェにゃ関係ねーだろ。二度とそのツラ見せんなデカ女」
 和則たちも思春期を迎えた少年たちだから当然異性は嫌いではない。
しかし素行の悪い彼らにとっては、美由紀のような生真面目で硬派な少女はタイプでもなんでもない。
むしろ、最も疎んじるタイプの存在だった。

「ケッ」
 それだけ言い残して、和則は美由紀にあからさまな嫌悪の目つきを向けると火のついたままの煙草を地面に投げ捨てた。
それに習うように、仁も伸樹も煙をまだ立てている煙草を放り出して歩いて去っていく。
良く見ればこの裏庭のそこら中に、不恰好に潰れた煙草の吸殻が何本も何本も落ちている。
ほぼ毎日ここにたむろして好きなだけ喫煙しては、ろくに後始末もせずにここに捨てっぱなしにしているのだから当然だ。
日焼けしているものから風雨にさらされほぼ地面と同化しているものまで、凄まじい本数だった。
彼ら以外に誰も近寄らない場所だから、誰一人として片付ける存在がいないのだ。
「待ちなさい、どこに行くつもり!?」
「お前に関係ねえって言ってんだろ」
「帰るんだよ、お前が邪魔するからよ」
 まるで聞く耳を持とうとしない彼らの姿に、美由紀の怒りは次第に増幅していく。

「あっ、そうだあんたたち、今年の身体測定受けてないでしょ!」
 その言葉には、ついに彼らからの返答はなかった。完全に無視して歩いていく。
 ズザッ!!
「な、何だよしつけーな!」
「どけよ」
 彼ら3人の前に突然立ちはだかった美由紀。その俊足に3人は内心驚きを禁じえなかった。
「私の質問に答えなさい。あんたたち、身体測定は!?」
「受けるわけねーだろ、そんなもん。どけ」
「あんなのやって何の得があるんだよ。関係ねーだろ」
「クラス全員のデータがそろってないとダメに決まってるでしょ。今から保健室に来なさい!私が測定してあげるから」
「なんだぁ、バカじゃねーのか?」
「こいつマジくだらねー。死ねよ」
 プチィィン。

 バキッ!!
「ぐえぇぇ!!」
 3人組の態度に美由紀が切れた。軽い口を叩いた伸樹が横っ面を大きくえぐられながら昏倒する。
本来、口よりも先に手が出てしまう性分なのだ。
体育委員と言う役職と自分がやっているスポーツの手前、極力物事は平穏に済ませようと心がけてはいたものの
これだけ人を小馬鹿にした言動を前にすると我慢は簡単に限界を迎えてしまう。
美由紀のパンチでひっくり返った伸樹は鼻血を流し、起き上がってくる様子がない。
油断していたこともあったのだろうが、3人とも美由紀の拳をまともに目でとらえることはできなかった。
「てっ、てめ…何しやがる!!」
「さっきから生意気な口ばっかりきくからよ。さ、新島を運んで一緒に保健室に来なさい」
「…!!」
 男を殴り倒しておいて平然とまだそんな事務的なことを話している美由紀に今度は和則と仁が切れた。
2人で美由紀の前後を挟み込み、臨戦態勢を取る。

「何なの?私と、やるつもりでもいるの?」
「てめえ、先に手ぇ出しといてふざけた口ききやがって…」
「俺ら怒らせてタダで済むと思ってんのか!!あーっ!?」
 和則と仁にとって、こんな女は絶対に黙らせなければならなかった。
去年在籍していた5年1組で暴君のように振る舞い、何の反抗も許さないほどの絶対的な男尊女卑世界を作り上げ
気に入らない奴は男女を問わず文句を言い終わる前に殴り、自分こそ『法』と気取っていた仁。
去年の二学期に隣の校区から5年1組に編入、そして仁と合流し
以前までいた隣のM小学校で好き勝手に暴れていた勢いをそのままに傍若無人の限りを尽くしてきた和則。
5年生のクラスで圧政をしいていた2人。
だから、女が男の前で無礼な行為に及ぶことなどあっていいはずがない。
獣のような目つきで美由紀を睨み、まさに食って掛からんばかりの形相だった。
「ふん、あんたたち、よっぽど身体測定受けるのが嫌いなのね…
まぁ無理もないわよね。子供のうちからあれだけ煙草吸ってちゃ身長なんて伸びるわけないもん。
私にチビだってバカにされるのが怖いんでしょ?」
「うるせえ!!殺されてえのかこの野郎!!」
「じゃ、いいわよ別に受けなくても。私、適当に書いといてあげるから、帰りたかったら帰れば?
身長はどうしよっかな…あんたたちチビだから5cmくらいでいいでしょ?」
「ブチ殺す!!」
 脳内で血管の音を響かせながら、和則が殴りかかっていく。
「う、ぅぅ…」
 ここでようやく蘇生してきた伸樹が頭を振りながら起き上がってくる。
さっきの美由紀のパンチ、全く目にも止まらない勢いだった…絶対ただ大きいだけの女じゃない…
そこまで考えがめぐった瞬間、伸樹はあることが頭の中でつながって急速に顔を青ざめさせた。
「和則!そいつとやりあうのは、ヤバ…」
 ゴッ!!

 遅かった。伸樹の忠告が耳に入り始める前に、和則は伸樹と同様に鼻血を霧吹きのように空へ発射していた。
「何だ、お前何を言おうとしてたんだよ!」
 一瞬のうちに殴り倒された和則を目にして思わずたじろいだ仁が、伸樹のほうを振り向いて問いかける。
「じ、実はな…」

 伸樹は仁に駆け寄り、耳打ちするようにその説明をする。以前人から聞いた話について。
去年あたりからこの町に、時々出没するというやたら喧嘩の強い女の話を。
夕方などにこの町で、恐喝や暴行などの行為に及んでいた中学生や高校生が
突如として現れた背の高いポニーテールの女に叩きのめされて土下座させられるという事件が、相次いでいるらしい。
その女はどこかの道場の帰りなのか、黒い帯を締めた道着の上に上着だけを羽織った格好で現れることが多く、
全然目で追うこともできないほど速く、重いパンチとキックで男たちは瞬く間に地に這わされて
二度とこんなことはしませんと強制的に誓わされる。
それは、男たちが一度に複数いた場合でも変わらないという。
1人1人、その拳と脚により戦意を失うまで実力の差を思い知らされて、
全員泣きながら彼女の足元に小さくひれ伏して何度も何度も謝らされるのだと…
伸樹は随分前に先輩の中学生からの伝聞で知ったその情報を、一発殴られてから思い出したのだった。
この同級生の美由紀という女…詳しい身長はわからないが明らかに170cmは超えていて…
長い髪を後ろでまとめたポニーテール…確かスポーツは町内の道場で空手をやっていると聞いたことがある…
前に聞いた話と特徴が見事に一致する!
その正体はこの美由紀だったということか!

「何を2人でコソコソ話してるの?男らしくないわね…やるのかやらないのか、はっきりしなさい!」
 伸樹の耳打ちに表情を変えた仁は、腕組みをした美由紀の一喝に思わず後ずさりする。
(ま、待て!何で女なんか相手に、ビビらなきゃいけないんだ)
 そう思い直して拳を握り締める。
自分たちにはこれまで暴力で男も女も黙らせてきたプライドがある。
これからあのグループに入って、ゆくゆくは天下取りも目指しているこの俺が、女にナメられていいわけがない!と。
「てめぇっ!!」
 自尊心と恐怖が入り乱れ混乱の収まらないまま、仁は美由紀に殴りかかる。
 ガッ!
「へへ、空手やってるったって俺のパンチが当たれば……うっ!!」
 振りかざした仁の拳は確かに美由紀の顔面を捉えた。
しかし…美由紀はそのパンチを額で受けながら瞬き一つせず、その瞳でまっすぐ仁を見据え続けている。
こんな攻撃はかわすまでもない、そう言いたげに。
突き出した自分の拳のすぐそばから送られてくる鋭い眼光に、仁の背筋が凍りつく。
慌てて引っ込めようとした右手が、美由紀の左手に素早く掴まれてしまう。
「1発ぐらい殴らせてあげれば、十分よね」
「ひ、あっ、ぁわわ…」

 ズドッッ!!
「ぶぉおご!!」
 次の瞬間、仁の体は美由紀の膝で鋭角なくの字を描かされていた。
鋭く重い膝蹴りが、仁の体内の奥の奥までを激しく突き上げ、呼吸を根元から奪った。
息を完全に封じられ、うずくまった仁はすぐ眼前に迫る雑草の生えた土の地面をうつろな目で見つめながら
絶え間なく襲い掛かる嘔吐一歩手前の鈍痛にボタボタと唾液をこぼしながら悶絶し続ける。
こんな蹴りは、今まで受けたことがない。なぜ女のくせに、こんな強烈な…仁は朦朧とする意識の中で戸惑うしかなかった。
「今まで喧嘩が強いって自慢してきてたみたいだけど…単に自分が勝てそうな相手としか戦わなかっただけでしょ?」
「お…おごご…」
「本当の強い相手っていうのを教えてあげるわ」

「くそおっ!!」
 背後から、ようやく起き上がってきた和則が流れる鼻血もそのままに襲い掛かってきた。
しかしその大振りの拳は、素早い動きで円のような軌跡を描いた美由紀の手に鋭く払いのけられてしまう。
突き出したパンチを無力化され、和則は顔が一番前に突き出したまま美由紀の前に飛び出す格好となった。
「甘いわね」
 美由紀の見下ろしてくる目と視線が合った瞬間、和則も今明らかに怯えの色を目に宿した。
(こ、この女…絶対に只者じゃない!!)
「いじめられてただおとなしくしてるだけの男も情けなくて嫌いだけど、
あんたたちみたいに弱いものいじめしかしないで強いふりしてる奴らなんかはもっと嫌いなの、私。
空手初段の私が、その根性叩き直してあげる」
 ドン!!
「ふぐぅっっ!!」
 周りの空気も震えるような重く鈍い音とともに、和則の胸板に目にも止まらない正拳突きがめり込んだ。
和則も仁と同様、わずかな呼吸すら自分の思うままにできないこの世の地獄に呻吟しながら崩れ落ち
跪いたまま眼前に迫る土の地面をあふれ出る大粒の涙で湿らせていく。

 わずか数秒の間に、和則も仁も美由紀たった1人に沈められうずくまって泣いている。
自分のほうを振り向いてキッと鋭い目を向けてきた美由紀に、ただ1人残された伸樹はもう奥歯の震えが止まらない。
「か…空手で段取ってるような奴が、素人殴っていいと思ってんのかよ!!」
 ついにはこんな逃げ腰の言葉まで発していた。
「だから、精一杯手加減してあげてるんじゃない」
 ビシッバシッパァァン!
 伸樹の顔が猛スピードで右に左に振り回される。美由紀の往復ビンタがうなりを上げたのだ。
風を切る速さで炸裂したその平手打ちは、1発1発が伸樹の歯の根本にまでジンジンと響き渡る激痛を残す。
今まで他人から加えられた範囲では考えられない痛さを刻み込まれるビンタの連打に、伸樹も泣き出した。
涙が、水を切るように左右に飛ぶ。
「あんたたちはどうしようもないクズだけど、一応大ケガさせちゃったら気分が悪いからね」
 骨折など、後々まで影響するような負傷は負わせないように美由紀の懲罰は下される。
それは、今まで泣かせて謝らせた中高生を含む男たちと同じように。
「ハアァ!」
 ドゴッ!!
 気合の掛け声とともに、美由紀の回し蹴りが伸樹のみぞおちを深々ととらえて制裁は終了。
剥いた目からひときわ激しく涙を噴出させながら悲鳴も出せずに伸樹は土の上に崩壊した。
「本気を出されないだけ、ありがたいと思いなさい」


 バッシャアア!
 数分後、伸樹は大量の水をかけられて強制的に目を覚まさせられた。
意識を取り戻した彼の視線の先には、青いポリバケツを持った美由紀が立っていた。
「何をモタモタしてるの?隣を見て同じようにしなさい」
 事情が飲み込めないまま言われるままに横に目をやると…そこには和則と仁が、
美由紀のほうに向かって土下座していた。伏せた顔からはすすり泣く声が聞こえてくる。
「まだ、わからないの?少し懲らしめ足りないのかしらね」
 苛立ったような美由紀の声が降ってきたところで、伸樹はようやく全てがつかめた。
またさっきと同じ、いやさらに激しい暴行を加えられる予感に背中を冷たくして
伸樹は滑稽なほど素早い動作で和則たちの真横に移動して彼らと同じ姿勢をとった。

 6年生の不良男子児童3人組の、陥落の瞬間だった。
かつて学級を力で支配し、喧嘩最強を謳って来た彼らが、1人の女子にまとめて叩きのめされ土下座、
泣きながら謝らされる最大級の屈辱にまみれていく…
「フン、まぁわかればいいの。これからはさっきまでみたいな偉そうな態度は慎むのね。
…顔を上げなさい」
 美由紀のその言葉に従い、彼らがそろって泣き濡れた惨めな顔を並べて前に向けた瞬間、

 カシャッ。
「なっ!?」
 彼らの目の前にあったものは、携帯電話のカメラのレンズだった。
その形と色から、和則のもののようだった。
和則が美由紀の突きでKOされた際、落としたものを美由紀が拾っていたのだろう。
「あんたたちが反省の気持ちを忘れないように、しっかりと保存しなきゃね」
「な、何勝手な真似してんだお前!!」
「何、勝手な真似、してんだ?お前??」
「ぁ、い、いや、何をするんですか、小野さん…」
「ねぇ、これってどうやって操作するの?私、携帯なんか持ってないからやり方わからないんだけど…
写すところまではできたけど、これどうやったらメールで送れるの?
この携帯に入ってる宛先全部に、あんたたちのごめんなさい写真送ってみようかって思ったんだけど」
「そ、そんな!!」
「やめてください、そんなこと…!」
「えーっと、この写真が出てる状態でメニューのボタンを押して、っと…」
「い…いやだ!!」
 そんなことをされたら、男たちにとってはたまったものではない。
3人そろって土下座の体勢から泣きじゃくった顔を晒した絵をそこらじゅうにバラまかれるなんて。

「お、お願いですから…」
 もはや恥も外聞もなく、同級生の女子相手に敬語を使いながら必死に慈悲を乞う3人の男。
「それから、ここをこうして…あっ、消しちゃった。
もう、わかりにくいわね携帯って」
 どうやら機械に詳しくない美由紀は操作を誤り、撮影した写真を削除してしまったようだ。
操作のややこしさが嫌になったのか、美由紀はあきらめて和則の携帯を和則の下に投げ捨てた。
「…まあとにかくそういうことだから!あんたたちは態度を改めること!いいわね!
もし次にまた調子に乗ってたら、今度は教室の中で、みんなが見てるところで土下座させるからね!
「……」
「返事は!!」
「は、はい!!」
 一斉に裏返りかけた情けない大声で返事を返す3人組。
「ふん」
その様子を冷たい目で一通り見下ろしてから美由紀が去っていった後…
3匹の負け犬の、鼻水をすすりながらの泣き声はいつ果てるともなく続いた。


 つづく