6年3組物語 第11話

お嬢様の懲罰

「何なのあいつ!ムカつく!!」
「あー、サブでしょ。ウザいよね」
「いちいちいちいち文句ばっかり!何であんなオヤジ校門に立たせるの!?」
 今朝は6年3組の教室でも、始業前の時間はサブと仇名される男への悪口大会の様相を呈していた。
ヒステリックに、サブを非難する女子児童の言葉が飛び交う。

 サブ。Y小学校のベテラン教諭、室谷三郎に付けられている陰の呼び名だ。
6年3組の児童たちがまだ入学してくる前の時代から、半ば伝統としてこの小学校の児童たちの間で
彼に対するサブという呼び方は受け継がれている。もちろん本人に面と向かっては呼ばないが。
それだけここに長くいる先生なのだが、子供たちからの評判は極めて悪い。何かにつけて、口やかましいのだ。
自分でクラスを持ってはおらず、この学校の各教諭をまとめる主任教諭というポストについている、室谷。
公用や病欠によりどこかのクラスの担任が休んだ際には彼がそこの教壇に立ったりするわけだが、
とにかくネチネチと説教臭く、話が長いため児童たちにはたいそう嫌われる。
一日の授業が終了した後のホームルームも、彼にかかると物凄い長時間に及び、
放課が同学年の他クラスよりも軽く30分は遅くなるのが通例となっている。

「大体あいつ、何世紀の頭してるわけ?この程度の服で何でそんなに怒られるか、意味わかんない!」
「制服じゃないといけないって、自分一人で思い込んでるんでしょ…迷惑よね」
「男子は坊主、女子はおかっぱっていう時代を生きてきた人だから、そこから外れた子供にはうるさいんじゃない?」
「うわー…だっさー……」
 特に悪評を集めるのが、彼が挨拶運動のために校門に立ったときだ。
こうして女子たちが話している通り、室谷は服装にも滅法うるさい。
昔ながらの尺度で子供たちを見ているため、男子児童は制服の半ズボン、女子児童は同じく制服のスカートでなければ
怒鳴りつける。
しかし今時、新入生でもなければ制服の半ズボンなど着用してくる児童などそうそういるわけもなく、
室谷が校門にいるのを発見したら進路を変えて裏門から入る児童、はじめから体操服で通う児童、
わざと遅刻していく児童、または教師が校門に立ち始めるより早く学校に来てしまう児童など、
対策を練る者も少なくなくなり始めた。

 そんな、時代錯誤な服装や髪形にとらわれガタガタと文句を言ってくる室谷にとって近頃の小学生、
特に6年生、とりわけ3組の女子児童たちは容認しかねる存在だった。
3組の一部のおしゃれな女の子たちも、うるさい室谷がいるときは正門から入ろうとしない。
「舞ちゃん、あんなオヤジさくっとイかせちゃっておとなしくさせてよ」
「そうそう、藤原さんなら瞬殺で言いなりにできるでしょ」
「何言ってんの、あんなかわいげのない男に、わざわざ…あたしにだって選ぶ権利はあるの」
 舞はそんな仕事なんか冗談じゃないと、サブに関わる話の輪から立ち去る。
身に付けているのは、当然室谷が見たら絶対黙っていないタイトなレザーパンツファッションだ。
すれ違うだけで、クラスの男の子たちの息づかいが荒くなる。
やはり舞が楽しいのは、こんなからかいがいのある男を相手にしているときのようだ。

「小川さんは…サブにネチネチ説教されたりは絶対無いよね。まじめだし」
室谷への陰口大会で盛り上がっている近くの席に座る小川未来に、井上亜由美から急に話が振られた。
「う、うん…」
 普段からおとなしい未来は、それだけ返した。
「やっぱりねー。あたしたちみたいなのは目を付けられるけど、小川さんは、ね」
「そうそう。未来ちゃんみたいなまじめでおとなしい子が、サブにとっては望ましい子なんでしょ」

 特に強制はされていない学校の制服である白い丸襟ブラウス、黒の吊りプリーツスカート、
そして白いハイソックスと、優等生的服装にきちんと身を包んで日々学校生活を送る、未来。
内面も清楚なお嬢様風の少女として知られており、彼女がこういうおしゃべりの輪に加わって人の悪口を言う様子など
誰も見たことがない。
成績優秀で品行方正、人を傷つけることなどまずない、(6年3組女子という枠の中では)小柄な少女、未来。

 再開されるサブ談義を少し離れたところで見つめながら、未来は誰にも気付かれない程度におかしそうな笑みを浮かべた。
だが、彼女がそんな表情をしていることにクラスの誰かが気付いたとしても、その意味は絶対にわからないはずだった。
未来がこの中の誰にも口にしたことのない、隠された室谷の秘密。未来だけが知る、本当の室谷…
それを知っている上で、子供たちに威厳を振り回して口うるさく接する室谷の話を聞いても、未来には笑いしか起こらない。
あの男が、普段どんな顔で厳しく指導などしているのかと…


 パァン!!
 肉を打つ乾いた音が、がらんとした廊下にエコーを奏でて響く。
「もっ…申し訳ございません!!」
 左の頬をジンジンと痺れさせながら、室谷は黒いビキニパンツ一丁で未来の前に平伏した。

 未来以外、どの児童も知らない室谷のもう一つの顔が、昼休みの廊下にてさらけ出されていた。
どの学年の教室も入っていない、特別教室のみが並んで昼休みには普段からほぼ人気のない静かな、
Y小学校第二校舎4階の廊下。
ここで室谷は、6年3組出席番号5番・小川未来の奴隷という裏の顔、いや真の表の顔に変わっていた。

「お前…私の目のないところでは随分といい気になっているようね」
 冷たい廊下に両手を付き正座しなおした室谷を、未来は腕組みをして冷たく見下ろしながら言う。
気の弱い児童たちからは恐れられるほど厳格な男として通っている室谷への、未来からの呼び方は『お前』。
「み、未来様、私は一応教師として…」
 室谷の弁明に対し、未来からの返事は言葉ではなく右手のひら、甲の往復だった。
左右の頬に焼け付くような痛みを刻み込まれて、仰向けにひっくり返る室谷。
「言い訳をしろなんて、教えた覚えはないわ」
「で、ですが…未来様…!」
 グリッ!ギュッ!!
「はがっ…ああああああ!!」

 未来の足を包む上履きの赤いゴム製のソールが、室谷の顔面を真上から押し潰してくる。
靴裏に刻まれた滑り止めの溝を、正確に室谷の顔面にコピーしてしまわんばかりに。
「お前は、何?」
 真上から降り注ぐ視線とともに、未来が問いかける。
教室で静かに座っている、清楚なお嬢様風優等生の表情のまま、ただその行為だけを尊大で冷徹なものにしながら。
「ゎ…私は、未来様の忠実な、げぼ…」
 ドスッ!
「そんなことは、当然でしょう。お前自身が、何かと聞いているの」
「ぅぅ……わ、私は、豚です。醜い牡豚で、ございます…!」
 6年生の児童の足の下で卑屈極まりない宣誓をしながら、室谷の股間はビキニパンツを貫通してしまいそうなほどの
昂ぶりを見せていた。
こんな熟年の男にはあまりに不釣合いのタイトなビキニパンツは、未来の命令により着用が義務付けられている、
未来様に拝顔する際の、『正装』といえるものだった。
「そう。自覚しているのね。
なら他の子たちにも、そうして醜い自分の姿をさらけ出して、忠誠を誓いなさいよ」
「そ、そんな」
「そんな、じゃないわ。お前は、自分で認めるとおりの牡豚なんでしょう?
だったら、毎朝校門でそのハイレグパンツ一枚になって土下座しながら学校のみんなに挨拶なさい。身分をわきまえて。
そうすれば、みんなにもきっと気に入ってもらえるわ」
「お、お願いです未来様!!それだけは…」
 パァン!!
「お前は接する相手によって、態度を変えるの?
そういうことはいけないと、お前はどこのクラスでもそう説いて回っているんじゃなかったかしら?
忠実な下僕と自称しておきながら平気で口答えもするし、何枚舌があるのかしらね、この腐れ豚は」
 パンパンパンパァァン!!

 切れ味鋭い平手の往復に軽い脳震盪を覚えながら、それでも目の前の少女ミストレスに失礼のないよう平伏する室谷。
「も、申し訳ござ…」
 ドズッ!
 脇腹に突き刺さった未来の上履き。硬く冷たい廊下を、半裸の室谷が不恰好にのたうつ。
「ぶたれたときはどういう態度を取るべきか、まだ理解していないの?使えない奴隷ね」
「ふぐぐ、ぁ、が……ぁ、ありがとう、ございます、み、未来様…」
 キックのダメージにいまだ身をよじりながらも、再び土下座の姿勢を取り直す室谷を、
未来は長い黒髪を後ろに払いながら当然のように見下ろしていた。
そして、彼の髪を掴んで正座の体勢にまで引っ張り上げる。
「罰を、与えるわ。しばらく反省することね」


 その日、6年3組の5時間目の授業は理科室に移動しての、理科の実験だった。
実験の結果に素直に驚く者、かったるそうにしている者、様々な反応と担任・沼田の声が室内をにぎわせる。
だが、そこから壁一枚隔てた部屋で起こっている凄絶な地獄には、今のところ誰一人として気付いていない。
その地獄を作っておきながら平然と授業に加わっている少女、未来以外の誰も…

 子供たちの声が隣の部屋から響いてくる中、室谷は理科準備室の中で1人、極度の痛苦と緊張に身を削られ続けていた。
準備室に置かれている掃除用具入れのロッカーにビキニパンツ一枚のまま監禁されている、室谷。
昼休みに、合計50発以上の平手打ちを加えられた後、未来による懲罰が室谷には待ち構えていた。
あのお仕置きが与えられた第二校舎4階に、理科室がある。
5時間目が始まる前に、3組の児童たちが理科室に集合するより先に室谷はこの理科準備室に引っ立てられ、
準備室内の掃除用具入れとして使われているグレーの鉄製ロッカーが、室谷の独房として用いられた。
狭くて暑苦しいスペースに閉じ込められた室谷の両手首は、未来が持参していたラバー製の拘束具により後ろ手に捕縛され、
さらに両の乳首と舌には、分厚い書類の束などをまとめるのに使われる金属製のクリップが装着された。
薄い紙を何十枚とホールドして落とさないクリップの噛み付く力は半端ではなく、その上ロッカーなどに貼り付けられるよう
付けられている重い磁石が、重力に従い室谷の乳首と舌を非情にも真下へと引っ張り続ける。
できることなら、既に室谷は絶叫しながら準備室内を転げまわっているはずだ。
しかし、今はまさにすぐ隣で、未来を含む6年3組の児童たちが授業中。
もし、この痛みに耐えかねて室谷が叫び声を発したり、倒れこんで大きな物音でも出したら、
沼田や児童たちが何事かと驚いてこの理科準備室へと駆け込んでくるだろう。
そうなれば、普段子供たちに厳しく接している教育者としての室谷三郎の威厳は台無しとなる。
子供たちが授業を受けているその隣の教室で、こんな破廉恥な姿を晒したら。
いや、それ以前に教師としてその立場が終わる。
極度の激痛と緊張感の中、室谷は5時間目終了までの45分間、ただ沈黙して隠れ続けていなければならないのだ。
閉ざされた狭い暗闇の中で、額を流れ落ちる脂汗が目に浸入し、その汗を大粒の涙が流し出しを繰り返す。
時計などあるわけがなく、時間の経過がわからず永久にも感じられる恐怖に精神が押し潰されそうになる。
たとえこの場に時計が設置されていたとしても、この苦痛に無言の喘ぎを続けなければならない室谷にしてみれば
秒針の進み方はおそらく蛞蝓の這うスピードよりも遅くしか感じられないはずだった。

 何度、この地獄に心を砕かれ叫び出してしまいそうになったか知れない。
そして何度、舌と乳首を切り落とされてしまいそうな激痛に膝が崩れかけ、
掃除用具入れを内側からノックして大きな音を響かせてしまいそうになり大粒の冷や汗で全身を濡らしたか。
大人の男が入れば直立不動の状態以外許されない狭い空間の中で、室谷の足元には脂っこい水溜りが形成されている。
室谷三郎という中年男の形をした、雑巾を絞ったかのような。

 そして、永久にも感じられた悪夢の終わりを、校舎に響くチャイムが告げた。
児童たちの明るい話し声と足音が準備室内にも伝わり、それは次第に小さくなっていく。
チャイムから数分が経過した頃、室谷を監禁していた牢の扉がついに開かれた。
こもっていた熱気が逃げ、循環するように入ってきた冷たい外気。
無言のままの未来の手により、3箇所を責め上げていた金属性クリップが外される。
金属製の平らな牙の痕を痛々しく残しながらも、開放の喜びに膝を崩し、準備室の床にへたり込む室谷。
「フン…耐えたのね」
 この世の地獄に連行された懲罰に耐え抜いたことへの、未来様から与えられたご褒美は…
「往生際の悪い、豚だわ」
 これまでにも受けたことのないほど強烈な、ビンタだった。
顔面をびっしょりと覆っていた脂汗の玉が飛び散り、室谷は側頭部を床にバウンドさせて昏倒した。


 未来と室谷が、どのようにしてこういう関係になったのか。話は一年前に遡る。
そもそも室谷三郎という男は、こんな願望を抱いていたのだ。
規則にうるさく子供たちを叱りつけ、目下の教師陣にも厳しく説教を繰り返す厳格な男として通る反動か、
彼の中で女性からの叱責やお仕置きを求めて胸を高鳴らせてしまうマゾヒズムが、いつしか芽生えていた。
そして彼はある日、市内の繁華街にある某SMクラブの扉を開けたのだった。
そこで室谷は出会った。本当の自分に。
加えて、自らが一生お仕えしたいと思った、理想の女王様に。
既に妻子のある身であった室谷だが、一度目覚めてしまった本当の願望には逆らえず、内緒でそこに通うペースを上げていった。
その女王様はその世界での第一人者といわれる、この地方都市にあっても全国的に名を知られるカリスマで、
『女帝』の異名で知られ日本中から奴隷、調教志願者が続々と押し寄せる伝説のミストレスだった。
彼女の名前は、永遠(はるか)。
普段は高い身分でふんぞり返っている議員、大学教授、企業経営者、弁護士などが次々と現れては
レザーやPVCの刺激的なコスチュームを身に付けた彼女の前に這い蹲り、踏み躙られ鞭打たれ、恥ずかしい格好で男を忘れさせられて
全頭マスクの中の目を醜く輝かせて喘ぎ、彼女からしか与えられない真のエクスタシーにのたうち、果てていく。
それは、形式的な身分に抑圧されていた『自分』をこの場でだけさらけ出して見る、ひと時の夢だった。
室谷も、そのうちの一人なのだ。
他の客と比べて身分も収入も決して及ばない室谷だったが、永遠女王様への想いだけは誰にも負けないつもりだった。
なんとしても彼女にこの存在を覚えてもらって、気に入られようと必死だった。

 だがそんなある日、室谷にとって青天の霹靂ともいえる事態が起こったのだった。
永遠女王様から突然、店に関係のないプライベートでの誘いがかかったのだ。
(数多い男奴隷たちの中から、永遠様が自分を選んでくれた!!
も、もしかして永遠様は、私を個人的な専属奴隷に…!?)
 願望していたこととはいえ、まさか本当にこのようなことが起ころうとは思えなかった室谷は
心臓が止まりそうなほどのときめきに震えながら、呼び出された指定の場所へと足を速めていった。
その呼び出された場所というのが、自分の勤務する学校の校区内という奇妙な近さだったことが気にはなったが。
「待っていたわ」
 その後通されたのは、この町では一番といえる大きな邸宅だった。
表札には、『小川』とあったが…
自分の家などとは比べ物にならない広さ、造り、そして一目で高価とわかる調度品の数々。
永遠様はあのクラブでの女王としてこれだけの財を成したのだろうか…室谷はただただ戸惑いながら広間へと導かれる。
広い部屋ソファに座る永遠の前に、パンツ一枚となった室谷が傅く。

 そこで永遠女王様から伝えられたのは、室谷にとってはショックな通告だった。
自分が後継者として育てている女王見習いの練習台としてお前を彼女の専属奴隷に任命する、というもの。
自分は誰よりも永遠女王様を慕って服従し続けてきたのに、急に他の女、しかも見習いの奴隷になれだなんて…
今にも立ち上がり、その不平を訴えようとした室谷だったが、自らの身分をわきまえるととてもそうはいかなかった。
これは永遠様から下された命令だ、それに背くようなことが許されるはずがない、しかし…

「いいわ、入ってらっしゃい。未来」
 ギィッ…
「!!」
 永遠の呼びかけに応じて部屋に入ってきた女王見習いの姿を見て、室谷は絶句した。
彼女は…自分が教鞭を執っているY小学校で日々見かける5年生の女子児童だったからだ。
普段数多くの子供たちを叱りつけ説教を加える室谷だが、これまでに一度も叱るような問題点が見つからなかった、
おとなしく育ちのいい清楚なお嬢様風女子児童としてみていたその存在が、いきなりこの場に…
しかも、いつも学校で見せる、人形のように整った顔立ちの静かな表情はそのままに、
身にまとう衣装はミニフレアスカートと一体化している黒エナメルのノースリーブボンデージドレス。
そして同じく光沢のあるエナメル素材の編み上げロングブーツに、二の腕の半分までを覆うアームグローブ。
(あ…あの優等生美少女が、な、なぜ……)
 普段厳格な先生として通っている自分が教え子の前で、こんなパンツ一枚でいる恥ずかしい状況であることも忘れ、
ただそこに現れた女子児童が、そのあまりに不釣合いなアンダーグラウンドの世界の住人のような姿で
目の前に立ったことに心を打ちのめされていた。
しかし同時に、マゾ心を煽り立てるそのコスチュームに包まれた彼女の発する妖しい魅力に、
室谷は胸の奥のざわめきを覚え始めていたのだった。
彼女のほうも、今見下ろしている男が自分の通う小学校の先生であることはもちろん知っているはずなのだが、
まるでこの男がここに半裸で四つん這いになっていることを当たり前のこととして見ているかのように、
あくまで普通の表情で見つめてきていることが、室谷をますます動揺させた。

「紹介するわ。娘の未来よ。未来が私の後を継ぐための修行の一環として、お前に役立ってもらうわ」
「!?」
 もはや室谷の思考中枢は真っ白だった。
この美しい永遠様に、もう11歳にもなる娘が存在しているとは…
そしてその娘が、自分が教員として在籍しているY小学校の女子児童、小川未来…
さらにその未来が、ボンデージ姿で乗馬鞭を片手に、これから自分を専属奴隷にしようと…
室谷は自らの前で次々に明らかになっていく事実を、何一つ整理することもできないまま
ただ永遠の足元で茫然と、今からのミストレスを見上げ続けているだけだった。

 ゴツッ!!
「挨拶はどうしたの」
 そんな室谷に対し未来からは言葉よりも先にハイヒールブーツでの踏み付けが下された。
後頭部に、何のためらいもないような勢いでヒールが下ろされ、室谷の顔面は毛足の長い絨毯に激しく打ち付けられる。
「奴隷らしい礼儀を、忘れたのかしら?ママからたっぷり教え込まれているはずなのに。
私を半人前だと甘く見ているなら…許せないわね」
 ゴッ!!ゴッ!!ゴッ!!
 未来は学校にいるときのおとなしく優しそうな顔立ちのまま、足元の室谷の頭をそのブーツで繰り返し、
無慈悲に踏みつけバウンドさせ、土下座を強要する。
気持ちの整理が全くできないまま、小学5年生の女子児童に何の躊躇もなく踏み躙られ、罵倒される…
重い衝撃とともに絨毯の味を思い知らされながら、室谷はその無念さ、情けなさに涙を滲ませていた。
だが同時に、室谷の穿くパンツは突き破りそうなほどに張り詰めていた。
教え子の足の下で物のように扱われるこの惨めな状況に、室谷はかつてない興奮を覚えていたのだ。
学校内で大きな顔をして子供たちを厳しく叱る自分が…その子供たちの中の一人のおもちゃとして…
昼間の身分、地位を忘れてあのクラブに被虐を求めに行くようなマゾ男にはこれ以上ないシチュエーションだった。
「フフ、お前なら日頃未来の身近にいてちょうどいいと思って、こんなことを頼んだんだけど…
その様子なら心配なさそうね。未来の成長のための、踏み台として十分に使えそうだわ。
それじゃ、その豚のことは任せたわよ、未来。愛情を持って、かわいがってあげてね」
「はい、ママ」
 こうして永遠は室谷を未来に譲渡し、部屋を立ち去った。

「今日からお前の持ち主は誰なのか、たっぷりと教え込んであげる」
 平気で室谷を『お前』と呼びつける、その清楚な風貌からは想像もできない冷たく高圧的な言葉の直後、
鋭く空気を切り裂く高い音を伴って、室谷の背中に乗馬鞭が炸裂した。
「ギャアア―――――――ッ!!」
 その激痛に背中を逆方向に丸め、一瞬大きくのけぞった室谷の視界に入った未来の顔は、
新しい奴隷のプレゼントに少し上気しているようにも見えた。
「これからお前は、これなしではいられなくなるの。嬉しいでしょ?」


 あの衝撃的な出会いの夜、そしてこれまでの凄絶な調教の数々…
ふとした拍子に背中の鞭跡が痛むたび、室谷はどんな仕事をしているときでもそれらの思い出に強制的に引き戻される。
そしてその激痛の直後には、決まってぞくぞくとした倒錯的快感に襲われ、周囲にその異変を気付かれまいと
表情だけを引き締めて見せることで必死になり、冷たい汗を浮かべてしまうのだった。
その背中の傷も少しずつ癒えてきたここ数日。おそらく、近いうちにまた未来から呼び出しがかかるだろう。
背中に刻まれた烙印を、絶やさないために。

 未来は室谷の背中に、所有者である自分の名前を刻んであるのだ。
鞭打ち痕で作った直線的な、『ミク』の文字が、室谷の背中に濃い紫色に刻み込まれている。
母親譲りの天才的な鞭捌きのなせる業だ。
月日の経過とともに奴隷調教のテクニックを向上させた未来は、お気に入りの鞭を乗馬鞭から長い一本鞭に持ち替えた。
大型の動物を調教するのに使うようなその長い鞭は、素人ならただ一回振るだけでも不可能な代物だった。
だが未来は、それを容易に使いこなす。確実に、狙った部分に焼け付くような痛みを与える抜群のスイングで。
当たり所が悪ければ骨が砕けてしまうほどの威力があるその鞭で、未来は巧みに室谷の皮膚のみを切り裂き、
決して大怪我をさせない程度に痛めつけ、室谷の悲鳴のサウンドを楽しむ。
そしていつしか、未来は奴隷の背中に鞭で自分の名前を書き込むほどの高度な技術を会得したのだった。
この技は、室谷だけを相手にしていては決して身に付くものではない。
おそらく未来には室谷以外にも、母親の永遠から複数の奴隷が与えられているのだろう。
背中にミクと痛々しく記入された男は、他にもたくさんいるのだろう。
これからも数々の男を階段のように踏みつけ、本当のミストレスへの道を登っていくのに違いない。
しかし、他に奴隷がいようと室谷には口答えなどする権利は当然ない。
また室谷は、もう未来なしでは生きていけないのだ。
背中に刻まれた名前のため、もう妻との夜の生活も不可能だが、そんなことはもはやどうでもよかった。
未来の姿を見かけるたび、背中をはじめとした全身の鞭痕、ヒール痕、ロープによる内出血や蝋燭による火傷跡が…
涙の滲むような痛みとともに甘い被虐への陶酔にうっとりとしてしまい
未来女王様の調教を夢見て胸は高鳴り、ズボンは持ち上げられる…


つづく