6年3組物語 第26話

真・体力測定

 夏休みの間に3回あるうちの、最初の登校日である7月31日。
普通、学校で行われることはただの顔見せであり、事故や病気がなかったかを確認して終わる
1時間程度で終わる簡単なものだが…一部の児童は残るように言われていた。
これは、夏休み直前の終業式の日から告げられていたことだ。
体育のことで、やり残したことがあるから体操服で集合するようにと。


「来たわね」
 指定されていた場所である体育館にやってきた女子児童数名を待ち受けていたのは、6年2組の担任・三浦杏子だった。
164cmと成人女性に珍しくない身長ではあるものの、学生時代から陸上競技に打ち込み、某体育大学で教職を取った
スポーツウーマンである彼女の体格は、ここに集まった巨女小学生から見てもただ小柄とは言えない迫力を持っている。
その横にいる沼田の小ささ、スポーツ未経験者の貧相なところがより際立つだけだ。
そして彼女はもちろん、見た目だけではない。学生時代の部活動で厳しい練習をしてきたのみならず
大学でトレーニング理論を専攻し、それを実践した効率的な鍛え方により、
女性的な細身のボディラインを残しつつ男性アスリートを凌ぐ力を発揮する肉体を手に入れているのだ。
見た目だけでもパワフルな彼女だが、加えて見えないところにも高出力のエンジンを隠し持っている。
競技生活は終えたものの、今でもジムでの鍛錬は欠かさない彼女の体内に秘められたパワーは
倍近い分厚さに鍛えられた男を手四つの力比べで捻り潰し、小さく折り畳んで泣かせてしまうほどだ。
中身の伴わないトレーニングで見た目だけ大きくしていい気になって、ジムで鍛える女をバカにする男など
彼女にしてみれば、ちょっと大がかりな機械のレバーを操作するのと大差ないほど簡単に
ねじり上げて、悲鳴という名の作動音を奏でてあげられる。
そんな感じで、本当に鍛えた女の強さを教えてあげた男の数も、今や面倒でカウントしていない。

 そんな杏子の強さは、この学校内でも有名になっている。
6年生の3学級合同で体育の授業をした際、相撲大会となって女子同士の取り組みも行われたが
彼女もまた対戦相手として土俵に上がり、その前にほとんどの女子児童が敗れた。
身長、体重で上回る児童が多くいる3組も例外ではなく、見た目を遥かに上回る力強さに
大きな女の子たちが次々と土俵を割り、また体操服を土に汚す光景を全クラスの男女が唖然として見ていた。
勝てたのはそんな杏子でもさすがに及ばない超人的なパワーを持った数人だけで、
それも体格と力に頼った吊り出しや、突っ張りでの突き出しで、内容でも完勝とは呼べないのがほとんどだった。
先生というものを甘く見ていた児童の多い3組の女子たちに、この日の授業は大きな楔となった。
沼田をはじめとする頼りない男性教師陣とは明らかに違う、敬意を持った目で杏子は見られるようになったのだ。
そんな杏子の名前で呼び出されたからこそ、この少女たちは素直に応じてここに集まったのだった。


「終業式の日に聞いてるとは思うけど、これから体力測定をやってもらいます」
 ここに集まっている児童は6年3組の智恵理、亜由美、桃子、ジェニー、そして6年1組の朝井茜。
いずれも、小学生の枠から大きく外れた力の持ち主ばかりだ。
「今日はあなたたちでも問題なく測れる機械を持ってきたから、遠慮なく全力を出してもらっていいわ」

 彼女たちがこうして日を改めて測定をしなければならない理由…それはもちろん、
普通の測定機器では測れないほどの数値を出すからだ。
去年、彼女たちは他の児童たちと同じように測定に臨んだものの、出席番号順に行って最初だった智恵理が
握力計も背筋力計も破壊してしまったため、5年3組全員分のデータが取得できずじまいだった。
この県の教育委員会が小学生用として採用している、最大値が60kgまでにとどまっている握力計では
到底智恵理たちのパワーを受け止めることはできなかったのだ。
吹き飛んだ針、二つに折れたグリップ、その無残な姿に担任の沼田は震えた。
今年は80kgまで測れる機械に変更されたものの、握力計そのものを握り潰してしまうあの力の前には無意味だろうと
杏子の判断により、一部の児童は後日測定することにしてそれ以外の生徒の全項目、
智恵理たちには機械を必要としない項目のテストだけを実施して、一学期に行われる体力測定は終了していた。


(一学期の時点で全校児童分が終了している項目での成績、男女別の上位10傑は以下の通りとなっている)

50m走   
女子 男子
氏名  学級  記録(秒)  氏名  学級  記録(秒) 
妹尾 理沙  6-2 6.61 足立 司  6-3  7.50
高橋 小百合 6-3 6.75  磯野 克臣  6-1  7.65
池田 千里  6-2 7.01  中島 誠  6-1  7.69 
辻 真尋  6-2 7.03  三崎 拓郎  6-2  7.71 
芹沢 琴乃  6-3 7.07  市川 義明   6-3  7.80 
水谷 奈央  6-3  7.13  長尾 俊一  6-1  8.00 
下田 愛  5-1  7.18  平野 昌 6-2  8.08 
府川 里奈  6-3  7.21  安井 栄作  6-3  8.22 
谷口 萌香  6-3  7.25  鈴木 宏 6-3  8.44 
谷口 萌里  6-3  7.25  森野 瑞貴  6-3  8.50 


垂直跳び
女子  男子 
氏名  学級  記録  氏名  学級  記録 
芹沢 琴乃 6-3 75cm 足立 司  6-3 62cm 
妹尾 理沙 6-2  69cm  三崎 拓郎 6-2  60cm 
高橋 小百合 6-3  68cm  市川 義明 6-3  59cm 
武吉 薫 5-2  68cm  鈴木 宏 6-3  55cm 
秋野 さくら 6-3  65cm  安井 栄作 6-3  55cm 
水谷 奈央 6-3  63cm  磯野 克臣 6-1  54cm 
府川 里奈 6-3  61cm  中島 誠 6-1  53cm 
下田 愛 5-1  61cm  森野 瑞貴 6-3  52cm 
池田 千里 6-2  61cm  黒木 正也 6-3  51cm 
相沢 智恵理 6-3  60cm  新島 伸樹 6-3  50cm 


ソフトボール投げ
女子  男子 
氏名  学級  記録  氏名  学級  記録 
ジェニー・レイン 6-3 105m11cm 江崎 和則 6-3 35m98cm
相沢 智恵理 6-3  102m31cm  長村 仁 6-3  34m60cm 
下田 愛 5-1  99m90cm  大山 太 6-1  34m51cm 
穂高 桃子  6-3  92m14cm  森脇 護 5-3  33m13cm 
井上 亜由美  6-3  88m85cm  安井 栄作 6-3  31m76cm 
納冨 妙子 5-3  88m60cm  市川 義明 6-3  31m55cm 
水谷 奈央 6-3  86m54cm  新島 伸樹 6-3  30m10cm 
秋野 さくら  6-3  85m00cm  中島 誠 6-1  30m04cm 
谷口 萌香 6-3  77m24cm 磯野 克臣 6-1  28m29cm 
谷口 萌里  6-3  77m24cm  足立 司 6-3  27m73cm 


 この上位のみを記録した表がもし男女混合のものなら、男子児童の名は1人か2人記載されるのがやっとだ。
飛び抜けた好記録を叩き出している一部の女子児童を抜きにしても、彼らが上位に食い込むことは難しい。
6年生男子の中でトップクラスにいる児童でも、5年1組の下田愛や飛び級している10歳の6年生・府川里奈に
敗北しているのだ…そして上位のみならず全体を見た場合、パワー系の種目で上位に入れない里奈にも、
数多くの男子児童は勝つことができないでいる。


 今日、この猛女たちのパワーを受け入れられる機械を調達できた杏子は
この日に彼女たちを呼び寄せたのだ。
これらは全て、杏子が在籍していた体育大学から借りてきたものだ。
いずれも、一流アスリートのデータを取得するために使うようなもので、ギネス級の数値でも計測できる。
小学生の数値を測るからこれらを貸してほしいと申し出てきた杏子に対して、大学側は当然色々と言ってきたが
実際に破壊された握力計の現物を見せつけるとさすがにその文句も止まった。
大学の担当者を黙らせ、それらを何とか借り出すことのできた杏子は子供のようにわくわくしていた。
これではじき出される彼女たちの記録は一体どれほどのものになるのだろう…
そして、その記録を見せつけられた際に大学側はどんな顔をするだろうかと…

「それじゃ、使い方を説明するわ。沼田先生、お願いします」
 使い方と言っても握るだけのはずだが、杏子はまず沼田に実際にやってみるよう頼んだ。
一瞬戸惑いつつその握力計を受け取った沼田だが、手渡されてからその重さに小さく呻きを漏らした。
杏子はその辺の小物と同じように軽く渡してきたが…そんな小さなやり取りでも力の違いを思い知らされながら
極力そんな動揺は顔に出さないように心掛けつつ、とにかくこの機械での測定に力を注ぐことにした。
「ううーん…!!」
 顔を赤く染め、力を振り絞っていることが第三者に伝わるプルプルとした震えが背中から腕、足先にまで走ったのを
杏子は確認して沼田に合図を送り、彼から握力計をヒョイと受け取った。
女子児童たちも興味深げに、その結果を示す針の位置を覗き込むが…
「あははは、何これ〜!!」
 ドッと沸き起こった笑い声に、今まで食いしばっていた奥歯の痺れもまだ引いていない沼田は狼狽える。
何をそんなに笑われるのかと自分もその握力計の出した数値を見てみたのだが…
初期の位置から、針の位置が全く変わっていなかった。
(そ、そんなバカな!あんなに力を込めたのに!!)
 確かに通常の握力計と違って、グリップを握りしめてもそれが動く感触が全く感じられなかったが…
「どういうことなんだ…」
「よく見てください、沼田先生」
「う、これは…」
 杏子に言われて、沼田はやっとその理由が分かった。
この握力計、起点の部分に50kgと書かれている。この機械の針を動かすには、最低でも50kgの握力が必要なのだ。
大きな力を測れる半面、大きな力を加えないと反応しない頑丈な作りなのだった。
通常の握力計で出せる数値が37kg程度の沼田に、その握力計を使う資格はないということだ。
「これでわかったわね、みんな。
ここに集まったみんなはいい記録出すのが楽しみみたいだから心配ないとは思うけど、
女の子だからって恥ずかしがって手を抜いたりしたってこの機械と、先生の目はごまかせないからね。
さ、それじゃ順番に握力と背筋力、測っていくわよ」
「はぁい」
「…」

 全力でその機械に力を注ぎこんだのに、手抜きした女の子と同等のサンプルとしてのみの扱いだった、沼田。
この集団の中にたった一人だけいる大人の男として、あまりに惨めだった。
「ところで三浦先生は、握力どれぐらいなんですか〜?」
 ふと、気になったのか桃子が質問してきた。
「あ、それ気になるかも」
「見た目より力あるもんねー、先生」
 智恵理と亜由美も同調した。

「知りたい?…ま、みんなには全然敵わないけど…」
 杏子は児童に測らせるためまず1組の茜に渡そうとしていたその握力計を再び自分で持ち直すと、
グリップを握って力を込めた。
「ん…んんっ!」
 杏子の前腕がプルプルと震えると、その針は50kgの起点から離れてクイッと動いた。
「ふぅ…ま、こんなものかしらね」
 一息ついてから杏子が握力計を机に置くと、その結果に興味津々の少女たちが群がって確認する。
沼田もその数値はすぐに見たかったが、巨女たちの人垣に阻まれてそれは叶わなかった。
「うわぁ、75kgだって!」
「やっぱ力あるんだね〜、杏子先生」
「…!!」

 児童たちの声で彼女の記録を知った沼田は愕然とする。自分の、倍以上ではないか!
一般的に、握力が75kgもあれば林檎が握り潰せると沼田は聞いたことがある。
指先をじわじわと表皮に食い込ませていくと、その力に負けて中身から果汁が滴り出し、
ついにはその形も保てなくなって林檎は少しずつ潰れて細くなっていくのだと。
杏子が逞しい体の持ち主で、常々自分が男としての優位性を見せられないことに無力感を覚えていたが
その数字を思い知らされることで、悔しさよりも、絶対に勝てない恐怖感に支配され始めた。
もし何かのきっかけで、彼女を怒らせることになったら…間違いなく無事では済まされない!
この日から、彼女に対する態度がますます卑屈なものになっていく沼田だった。

 世界で最も握力があるという人間の記録はおよそ200kgとされている。
ここに用意された握力計の最大値は200kg。その世界記録保持者が握っても壊れない特別な機械だ。
その機械を最初に握る児童は、朝井茜。6年1組の男たちを震え上がらせる相撲少女。
今年の春に、誰かから投函されたチラシに発奮し、遠く離れた漁師町で行われた相撲大会
しかも成人の部に参加して旋風を巻き起こし、伝説を残し消えていった謎の女としてその町では知られている。
同じ県内とはいえ遠い地域での出来事で、新聞の地域欄でもこのあたりの区分では掲載されなかったことから
この地元でその活躍を知る者は極めて少ないが、杏子はそれを知っている。
先日の体育の時間に相撲を取った時も、杏子は茜ら数人の女子に敗れたのだが
茜相手の取り組みは完敗というしかないものだった。組み合った時点で、他の女子と違った。
地面に据え付けてあるかのごとく、全く動かせない。反面、彼女が動けば自分は軽々と流される。
気付けば、自分の足は土俵を表現した白線の外に出されていた…
そんな茜がこの握力計でどんな記録を叩き出すか、杏子は半ば童心に帰って興味深く見つめる。

「ふんっ!!」
 力のこもった茜の声とともに握力計が見せた反応に沼田は青ざめた。
まず50kgの力が加わらなければ動き出さないはずのあの針が、まるで0からのスタートであるかのように
勢いよく駆け出して行った。そしてそれは、杏子が限界に達して止まった75kgを越えてまだ止まらない。
「えーっと…115kg!」
「Great! アカネ!」
「もうちょっと、行くかと思ったんだけどなー」

 沼田は、もう下顎がしっかり閉じ合わせられなくなっていた。
このあたりのパワーとなると、林檎はその握る力に負けて少しずつ潰れるどころではなく、
握られた瞬間に砕け散ってしまうレベルであろう。
林檎どころか、椰子の実が握り潰せてしまうかもしれない。
もし彼女と喧嘩になって、その115kgの力を自分の頭にでもかけられようものなら…
つい思い描いてしまった恐ろしい映像に固まる沼田を横に、杏子はその茜の数値を嬉々として書き留める。
続いて茜は背筋力測定に移り、握力計は順番通りに智恵理へと渡される。
茜が上に立った背筋力計も、もちろん玄人仕様のもので最低値が150kgと書かれている。
もう実演するまでもなく、沼田ではほんのわずかも動かせないことは明らかだった。

 自分が計器を壊してしまったからだとはいえ、自分の力をわかりやすく数字で見せつけることを
2年にわたってお預けにされてきた智恵理は、今日という日をどれだけ待ちわびていたことか。
それを、握力計を渡されて手に取った瞬間の表情と前腕の脈動が何よりも物語っていた。
彼女に言わせれば『子供向け』の握力計が、指側も手の平側も二つに折れ、目盛りの透明カバーも割れて吹き飛び
針もどこか遠くに飛んで行ってしまった去年の春から、彼女はさらに力を増している。
強くなることの楽しさに目覚め、日々ウェイトトレーニングを積むその体は、見た目からして去年とは違う。
体操服の袖が窮屈だからと、まくり上げられて肩から露出しているその豪腕は
体育館の照明を受けて筋肉の凹凸に深い影ができ、貧弱な沼田を威圧している。
これからその力を誇示するのを楽しみにしているかのような前腕、上腕の力瘤の前には
沼田のそれなどチョコレートの小枝にしか感じられない。

「ふんっ!!」
「はぁっ!!」
 茜の背筋と智恵理の握力が同時に火を噴いた。
背筋力計で150kg、握力計で50kgとそれぞれ設定されている遊びが全く存在していないかのように、
アクセルを踏みしめられた車のタコメーターのごとく針が一気に飛び上がって、回る!
「朝井さん、270kg! 相沢さん、138kg!」
 数値を発表した杏子の声に、興奮が隠せていない。
「おお―――っ!!」
 後に控えている少女たちからも歓声が湧き上がる。
普段なかなか披露することのできない全力を見せつけ、それにクラスメイトたちが沸いていることに満足感を覚え
智恵理は胸を張り、もう一つの自慢となりつつあるバストを体操服の下でゆさゆさと揺らして見せた。
それにまた、驚きの声が上がる。
トレーニングの成果で大胸筋が盛り上がった智恵理は、その大胸筋を自力で動かすことにより
このような一発芸ができるようになったのだ。
沼田はもはや、言葉を出すどころか呼吸さえままならないほどだ。
背筋力測定はその性質上、引っ張る腕や踏ん張る脚の力も加わるから本当に背中の力だけではないのはわかるが
それにしたってこんな記録は生で見たことなどない。ましてや小学生の体力測定で。
そして智恵理の握力…絶対に逆らえない…と生命の危険をより身近なものとしてわきまえさせられた。
やはり先日、学校の中庭に植えられていたソテツの樹を破壊したのは智恵理に違いないと確信したが、
そんなことを下手に問おうものなら、どんな目に遭わされるか…

 その後も女傑たちの体力測定は続き、表示される規格外の数字とそれに不釣り合いな黄色い歓声に
沼田は何の役目もなくただ立ちすくむのみだった。

 一学期に行われた際、自分たちだけ除外されて不完全燃焼だった体力測定。
それどころか去年から自分の正しい数値を見られていなかった不満を解消できたローティーンアマゾネスたちが
晴れ晴れとした表情で体育館を後にしていったのを見て、杏子は用具室のほうに声をかけた。
「秋野さん、水谷さん、いいわよ。もう出てきても」
 その声を聞いて、またも大きな2人が体育館に姿を現す。
「ごめんね、待たせちゃって。あなたたちの気持ちは、わかってるから」
 その2人が立っている前のテーブルに、杏子は例の握力計をゴトリと置き直した。
「みんなが測ってる時に聞いたとは思うけど…私の目はごまかせないの。
私は先生としてね、手を抜いた数字をそのまま記録として残しておくことは許せないのよ」
 206cmと191cmという、校内での身長2トップの少女が無言のまま顔を見合わせた。
秋野さくらと水谷奈央の2人は、一学期の体力測定で他の児童と同じように握力と背筋力の測定を終えていた。
しかしその数値が、その体格にして不自然に低かったことが杏子には見過ごされなかった。
手を抜いている…しかし、そうする気持ちも杏子にはわかった。
あのような体の持ち主ではあるが内気な性格であり、目立つことを避けたがる2人。
飛び抜けた数値を出して周りから騒がれることを嫌ったのだろうと。
なので、やり直させる上で配慮をしてあげた。
自分の記録と同じく他人の記録も気になる少女たちと同時の測定は避け、後で内緒で測ることで
彼女たちが無用に騒がれることのないよう…そして、恥ずかしがらず全力で測れるように!
さくらも奈央も、その50kgの力が働いてようやく反応する握力計の硬さに戸惑った表情を見せつつ
全力を求める杏子の前で力を振り絞り、針を軽く動かしていくのだった…


「実に興味深い記録が取れましたね、沼田先生!」
 全児童の測定を終えて、職員室でデータをまとめていた杏子が隣の席の沼田に目を輝かせながら言った。
沼田はそれに対し、虚ろな目で頷くだけだった。
これから機械を返却しに行く際、この数値を突き付ければ彼らがどんな反応をするかと、
また悪戯好きの子供みたいな顔をしてその時を楽しみにしている杏子とは対照的な表情だった。
元々、雌ライオンと雄ウサギの混在した檻に閉じ込められた飼育員のような心持ちだった沼田だが、
今日、目に見える数字という形でその力の大きさをまざまざと見せつけられた彼は
彼女たちがライオンどころかさらに強力で獰猛な、触れてはいけない牝獣であることを認識させられ
ますます檻の中で立っていられる場所が小さくなっていくことを感じるのだった。
そしてさらに、隣にいる同じ人間だと思っていた女性も、自分ではまるで歯が立たない危険な相手であることも。


※全員測定完了後の記録

握力
女子  男子 
氏名  学級  記録  氏名  学級  記録 
相沢 智恵理 6-3 138kg 大山 太 6-1 58kg
井上 亜由美 6-3  120kg 江崎 和則 6-3 54kg
朝井 茜 6-1  115kg  長村 仁 6-3 53kg
穂高 桃子 6-3 113kg 新島 伸樹  6-3 51kg
ジェニー・レイン 6-3 100kg 市川 義明 6-3 49kg
水谷 奈央 6-3 93kg 安井 英作 6-3 45kg
秋野 さくら 6-3 85kg 三好 昌平 5-2 43kg
小野 美由紀 6-3 77kg 山田 和之 6-2 40kg
河野 佳織 6-3 72kg 小林 修 6-3 40kg
下田 愛 5-1 70kg 長尾 俊一 6-1 38kg 


背筋力
女子  男子 
氏名 学級  記録  氏名  学級  記録 
井上 亜由美 6-3 288kg 大山 太 6-1 135kg
相沢 智恵理 6-3 285kg 江崎 和則 6-3 113kg
朝井 茜 6-1 270kg 長村 仁 6-3 105kg
穂高 桃子 6-3 267kg 足立 司 6-3 98kg
水谷 奈央 6-3 255kg 新島 伸樹 6-3 97kg
ジェニー・レイン 6-3 234kg 市川 義明 6-3 95kg
秋野 さくら 6-3 203kg 安井 英作 6-3 90kg
納冨 妙子 5-3 188kg 三崎 拓郎 6-2 80kg
下田 愛 5-1 183kg 山田 和之 6-2 78kg
辻 真尋 6-2 177kg 三好 昌平 5-2 75kg


 つづく