5年3組物語 第7話

提出されなかった作文

『私の趣味』5年3組 13番 西村優子

 人はその人によって、いろいろ違う趣味や特技があると思います。
私のクラスのお友達も、それぞれいろんな趣味と特技を持っています。
井上さんはレスリング、小野さんは空手、高橋さんはサッカーをやっているし
相沢さん、垣原さん、谷口さん、七瀬さん、樋渡さんたちは、…男子いじめが好きなんだと思います。
そして私にも、実は誰にもいえないけど大好きなことがあります。
それは、金蹴りです。

 まん丸になって、その場に崩れ落ちるみたいにして地面に寝そべりながらあえぐ人もいるし、
ピョンピョン飛び跳ねて苦しみながらその後うつ伏せに倒れて動かなくなる人もいます。
でもみんな、顔中にいっぱい大粒の汗を浮かべて金魚みたいに口をぱくぱくさせているのは同じです。
ここを蹴られると、息ができなくなってすごく苦しいみたいです。泡を吹く人もいます。
体の大きさとかそんなことは全然関係なく、男の人はみんなそうです。
ちょっとあそこの部分を蹴り上げられるだけで、男の人はみんな泣きそうな顔をしてつぶれてしまいます。
それも、私みたいな女子小学生に蹴られたぐらいで、大の大人の男がです。
男の人って、不思議…
男の人って、弱い…
男の人って、情けない…
男の人って、かわいそう…
男の人って、おもしろい!!

 私がこんなに金蹴り大好き少女になってしまったのには、きっかけがありました。
半年ぐらい前に、私は下校中に1人の知らないおじさんに突然道をふさがれました。
物陰から飛び出してきて急に目の前に現れたおじさんに私が驚くより先に、そのおじさんは
自分の着ていたロングコートの前を、左右に思いっきり開きました。
「キャアッ!!」
 私は悲鳴を上げられずにはいられませんでした。
そのおじさんが、コートの下には何も身に着けていなかったからです。
そして私は、自分でも驚いたことに、そのおじさんの姿を見たくないと思って両手で顔を隠すよりも早く
右足がおじさんに向かって出ていたのです。

 ボグウゥゥゥッッ!!
「ぴぐぉぉっ!!」
 私のスニーカーは私が意識しないうちに、私が一番見たくなかったおじさんの股のところに
深く突き刺さるみたいにしてめり込んでいました。
おじさんはまるで男の子がよく読むマンガみたいに目を飛び出しそうにむいて、
変な裏返った悲鳴を上げてから、ゆっくりと棒が倒れるみたいに仰向けにダウンしました。
そのときです。
 ぴゅ――――――っ!!
 私は生まれて初めて見る状況に言葉が出ませんでした。
倒れたおじさんの真上を向いたおちんちんから、水鉄砲みたいに白いものが吹き出したからです。
その白い噴水は3mぐらい飛び上がったと思います。
そして、その白い液体全部が裸で仰向けになってぴくぴくしているおじさんの顔や体全体に降り注ぎました。
湯気を立てて、ねばねばぬとぬととして糸を引いている牛乳みたいな変なもので顔中をべちゃべちゃにして
目だけうるうるさせてただぴくぴくと震えていました。
とても気持ち悪かったです。とても汚くて、いやらしいものを見てしまった気持ちになりました。
でも、そんなに気持ちの悪いものを見てしまったはずなのに、最低なもののはずなのに、
私はそのおじさんを見下ろしているうちに、全身にぞくぞくとしびれるような何かが這い登ってきたのです。
初めて感じる感覚でした。
「えっ!?これって何…?ぅうっ、あっああ…気持ちいい……」
 なぜか私の体中を、電流のように快感が鋭く突き抜けていきました。
私は、その場に立っていられないほどの気持ちよさにがくがくと震えました。
「ど、どうして…こんなに気持ちいいの…?」
 でも私は、この気持ち悪いおじさんのそばにいたくない一心で、
全身に力が入らない快感によろよろしながらどうにか家へと帰り着きました。

 帰ってからも私はたまらない気持ちで、すぐにベッドに入りました。
目をつぶると、さっきの光景がまるで今見ているように強く浮かんできました。
どうしてあのおじさんは、急に私の前に裸で出てきたんだろう…
小学生の女の子に、自分のおちんちんを見せて何が楽しいんだろう…
そして、どうしてあのおじさんのおちんちんは固くて細長いキノコみたいに、まっすぐ私のほうを向いていたんだろう…
おじさんの股の間に生えていたそれがあまりにも気持ち悪くて、目に焼きついてしまいました。
私はそれを見たくないと思うあまり、考えるより先に蹴りが出てしまったのかもしれません。
ちょっと、かわいそうなことをしてしまったのかもしれない…
いいえ、私は別にいけないことをしたとは思えませんでした。
あのおじさんはきっと、女の子に裸を見せて興奮するという変質者だったのだと思います。
最近新聞などでも、そういう人が起こす事件が書かれているし
この近くでもそんな人がいるから気をつけましょうというプリントが何度か配られました。
だから、私はあの時蹴ってよかったんだと思いました。
あの人は、蹴られて当然の、最低な変態男だったんです。
そう思って自分を納得させたとたん、私はまたさっきのようなぞくぞくする感じに襲われました。
私の足が股間に食い込んで、一瞬何cmか宙に浮き上がった瞬間のおじさんのあの表情、
靴越しに足の甲に伝わった、ゴリッとした感触、
ゆっくりと倒れた体におちんちんだけ真上に向けて、変白く粘っこい液体が花火みたいに飛び出して…
そんな不思議な現象が次々と私の頭の中を駆け巡るうちに、また体中を強い電流が走りました。
私は枕を抱きしめたまま布団の中で、感電するみたいにして快感にがくんがくん暴れまわったのです。
パンツの裏側からふとももにかけて、何かぬるぬるしたものでびっしょり濡れた感覚がありました。
でもそれを拭く余裕もなく、私はその気持ちよさに震えながら深い眠りへと落ちていきました。

 その日から私は、金蹴りの快感に目覚めてしまったのです。
もっと蹴飛ばしたい…もだえ苦しむ男の人の顔をもっと見たい…
そして、もっとあの快感に震えたい!!
私は、次のターゲットを探しました。
身近にうちのクラスの男子たちがいるけど、ちょっと金蹴りの的にするには気が引けてしまいます。
いつも一緒に学校にいる顔なじみだし、別に悪いことをしているわけじゃないから
蹴りを入れたりとかあまりそういうかわいそうなことはしたくなかったからです。
ターゲットとしてピッタリなのは、やっぱり最初の露出狂のおじさんみたいなエッチな悪い人です。
そのほうが、遠慮なくキックできるから。



 …と、ここまで書き進めた作文を優子は中断し、
クシャクシャに丸めてしまった原稿用紙をゴミ箱へと放り投げては一人ため息をついた。
「あぁん、やっぱり学校にこんな作文出せないよぉ。
どうしよう、何書いたらいいんだろ、私…金蹴りの他にこれといって趣味なんてないし…」
 自分の趣味についてというテーマで明日が提出期限になっている作文に、
優子は深夜になっても机に向かって頭を抱えていた。


つづく