ソウル日和

 

 

友人のフラウ・森は、ロックバンドのラルク・アン・シエル(以下「ラルク」)のファンである。2008年、そのラルクが上海・台湾・パリ・ソウル・香港と海外ツアーを行うそうだ。

「ラルクのソウル公演に行くんだ〜」「いいな〜、私もソウルに行きた〜い!」

・・・ということで行ってきました。

 

 

 

1日目  貞洞劇場で伝統舞踊を楽しむ

 

 

羽田空港の国際ターミナルは、いくらソウル行きと上海行きしか(香港もか)飛ばないといっても、狭すぎやしないか、というくらい狭かった。ロビーの銀行で2万円を両替したら、193,000ウォンが手元に来た。ちょうど一桁多いという感じで、感覚が狂う。

飛行機は韓国のアシアナ航空13:05発。大韓航空のイメージカラーが浅葱色なのに対して、こちらは赤だ。機内食にキムチが出たのにはびっくりした(大韓航空では出なかったので)。機内がそこはかとなくキムチ臭かった謎が解けた。フラウ・森は、実はキムチが苦手なので気分が悪くなってしまったそうだ。

 

 

15:25、定刻どおりに金浦空港に到着。出国ロビーに、ガイドの金(キム)さんが待っていた。ガイドと言っても、フリーツアーなのであまりお世話にはならなかったが。もう1組の夫婦とともにホテルへの送迎のワゴンに乗り込む。金さんから諸注意を受け、ついでに最終日の午前中に汗蒸幕エステの予約も入れてもらった。

これからの予定を聞かれ、「まず18:00の漢江クルーズに乗って、それから市庁の近くの貞洞劇場の20:00の公演を見て、終わったらNソウルタワーに行くつもり。」すると金さんは呆れ顔で「いつ食事をするの?」と笑った。しかし公演の予約を入れていないことを聞くと、予約入れてあげましょうか、と言ってくれたのですぐさまお願いした。

ホテルは、観光地からちょっと離れた「ソフィテル・アンバサダー」。とはいえ景福宮など主要観光地へは、乗り換えなしで行けるのでアクセスはそう悪くない。お部屋もちょっとシックな感じ。帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれて、ホテルに到着したのは17時を回っていた。漢江クルーズに間に合わない!地下鉄で三度は乗り換えなくてはならないのに!荷解きもせずに地下鉄を乗り継いでヨイナル駅へ、遊覧船の船着場へ向かった。しかし船は出港したあとだった。

 

(左)パッピンス(カキ氷の上に

あんこ、ぎゅうひ、マシュマロ、

フルーツ)と(右)カフェオレ

気を取り直して市庁に向かう。途中で食事も出来るしね!そうだ、あの2月に放火された南大門を見に行こう、と針路変更したが、道に迷ってたどり着けなかった。

開演まで少し時間があったので、市庁駅のすぐそばにある徳寿宮(入場料1,000ウォン=約100円)に寄ることにした。ここはもともとは国王の兄の私邸だったが、豊臣秀吉の朝鮮出兵の戦乱ですべての宮殿が焼失したため、行宮(臨時の御所)として用いられるようになった場所だ。20世紀初頭には、韓国最初の近代建築も建てられている。しかし何よりも我々を惹きつけたのは、入口近くの小さなカフェだった。フラウ・森はパッピンス(韓国のカキ氷)、私はカフェオレを頼み、池に面した席でゆったりとしたひと時を過ごした。結局食事は出来なかった。

 

 

 ■ 貞洞劇場 ■

貞洞劇場の出演者の皆さん

 

 

 

時間になったので徳寿宮の裏手にある貞洞劇場に急ぐ。思っていたより小さな劇場で、ほとんど満員だった。金さんに予約をお願いして正解!席はA席で20,000ウォン(約2,000円)だった。

公演は、器楽と歌、舞踊を次々と紹介するというもの。サムルノリ(ケンガリ・鉦・チャング・鼓など伝統楽器を用いた音楽)の音は大迫力、伝統舞踊の扇舞は天女が舞っているかのよう。扇やチマチョゴリの裾が花のように広がって、あまりの美しさに眼を奪われた。舞台がハネた後は、出演者とともに劇場の前の野外広場に集まって一緒にダンス&記念撮影。中国人観光客に先を越されてなかなか近づけなかった。

 気がつけば21時半。今度こそ南大門を見て、南大門市場を通り抜けてホテルの最寄り駅まで戻った。駅の近くの飲み屋街で日本語でメニューが書いてある店に入り、ビビンバを頼んだ。(結局これが、唯一食べた韓国料理だった。)大量のキムチの前菜とスープもついて5,000ウォン(約500円)。辛いねー、でもおいしいねー、とハフハフしながら平らげた。

 

 ホテルに戻り荷物の整理をしていて、ペンケースがないことに気がつく。それ自体は惜しくないのだが、中にUSBメモリが入っていた。仕事で使うファイルなどは入っていないが・・・。多分、送迎のワゴンの中に落としたに違いない。翌朝、公衆電話から金さんに確認の電話をした。ところが、送迎の後は運転手さんと二人で忘れ物がないかどうかチェックしているが、覚えがないということだった。あーあ。

 

2日目  景福宮でチマチョゴリ、漢江クルーズ、Nソウルタワー

 

ドイツでも日本でも韓国でも、5月はWunderschönen Monat Mai(美しの月、5月)だ。翌朝は、気持ちがいいほど晴れた。風は爽やか、新緑が目に眩しい。朝一番で景福宮(キョンボックン)へ。世界遺産の昌徳宮(チャンドックン)は、ガイドツアーでないと入れず、見学時間も決められているが、こちらは自由に見学ができる。地下鉄の5番出口を出ると目の前に宮殿が見える。ここでもT-money が使えて、チケット(3,000ウォン=約300円)が買えた。

T-moneyとは、日本で言えばJRのSuicaやPASMOのような交通料金のプリペイドカードだ。普通のカード型のほかに、携帯ストラップみたいな小さいものがある。これ1枚でソウル中の電車やバスが割引料金(通常1,000→900ウォン)で乗れるし、自販機で切符を買う面倒がない。それどころか、公衆電話や観光名所などでも使えちゃうのにはビックリ。購入やチャージは、駅やT-moneyの目印があるコンビニでできる。

 

       景福宮 ■

 

入口の興礼門の前には、昔の衣装を着た衛兵たちが立っている

丹青(タンチョン)と呼ばれる独特の彩色。

香遠亭。後ろに立つ山は白岳山(ペックァッサン)

慶会楼

 

 

景福宮は、1395年に建てられた李王朝最初の王宮。1592年の壬辰の乱(豊臣秀吉の朝鮮出兵)で焼失した後、再建と破壊が繰り返された。現在も修復中で、最終的には2025年までかかるそうだ。寺院や宮殿にしか許されていないという独特の彩色は、修復を終えたばかりでくっきりはっきり、青空に映えて美しい。庭園付近は特にオススメ。まずは蓮池の中の小島に建てられた六角形の「香遠亭」。ここは王の休息所だったところだ。橋を渡って近くまで行ってみたかったが、立ち入り禁止だった。それからもう一つ、韓国最大の木造楼閣である「慶会楼」。ここは王と臣下が会う場所だったというが、夜ごと宴が開かれていたのではなかろうか、灯りを燈した屋形船がすべらかに水面を走っていたのではなかろうか、と想像が膨らむ。博物館の展示にも興味があったが、「次来たときに行こうね!」ということで今回はパス。いつのまにか、「次のソウル」構想が出来上がりつつあるのだった。

一とおり見たあとおみやげ物売り場に寄ると、チマチョゴリを着て記念撮影できるコーナーがあった。「チマ」はスカート、「チョゴリ」は上着を意味する。フラウ・森はピンクのチョゴリと青のチマの組み合わせを、私は黄と赤のものを着せてもらった。上着の下に手を入れるのが作法らしい。カメラマンの若い男性は、日本の音楽に興味があるのか、フラウ・森の着ていたラルクのTシャツに反応していたそうだ。「3ヶ月前から日本語を習っている」と言っていた。現像まで本当なら30分くらいかかるそうだが、時間がないというと、たまたま人手と余裕があったのか、我々を現像場所まで案内し15分ほどですぐに仕上げてくれた。2枚で30,000ウォン(約3,000円)だった。

お次は古い街並みが素敵な仁寺洞(インサドン)をそぞろ歩く。フラウ・森はポジャギや指貫など、手芸用品がお目当て。私は和紙ならぬ「韓紙」を買い込んだ。それから、14時発の遊覧船に乗るために、買い物もそこそこにガイドブックに載っていた「伝統茶院」に足を向けた。どうやら違うお店に入ったみたいだったが、ここも古い韓屋を改造した素敵なところだった。私は韓国の伝統茶である柚子茶(ユジャチャ)、フラウ・森はアイスコーヒーを頼んだが、どちらもおいしかった。

 

       漢江クルーズ ■

 

船から見た景色

 

蚕室の船着場

13時にはお店を出る。時間がないのにまた迷ってしまった。ハングルが読めないから、どうしてもカンが頼り。「移動のときはプラス30分」というのが合言葉(?)になってしまった。とはいえ今度は14時の乗船に間に合った。乗船料は汝矣島(ヨイド)〜蚕室(チャムシル)間が9,000ウォン(約900円)。中に売店があり、軽くお菓子などをつまむこともできる。  

船はいくつもの橋をくぐっていく。漢江クルーズは夜景を楽しみにしていたのだが、こうして昼間に乗るのも、のんびりした気分になれていい。疲れがたまっていたのか、私はついつい眠り込んでしまった。その間にフラウ・森は写真を撮っていた、と言った。

約1時間後、蚕室に到着。そこから二手に分かれる。フラウ・森はラルクのコンサートを見にオリンピック運動場へ。私は、国立国楽院の土曜公演を聴きに、南部ターミナル駅に向かった。

当日券が取れるか不安だったが、舞台のど真ん前のいい席が取れた。前日見た貞洞劇場の公演が華やかなショー、歌舞伎か大衆演劇だとしたら、今日の公演は雅楽などの宮廷音楽、といった格調高いものだった。日本の雅楽や伎楽はこのあたりから伝わったものなのかな・・・。後半は、伝統楽器をオーケストラのように編成して、現代の作曲家が作曲した曲を演奏していた。演者も韓服を現代風にアレンジしたものを着ていた。17時からばっちり1時間半。これで10,000ウォン(約1,000円)はお得かもしれない。

公演後は、3駅となりの狎鷗亭洞(アックジョンドン)ヘ。最先端のショッピングスポットとして人気の街だ。が、とりあえず駅に直結している現代(ヒュンダイ)百貨店に入った。イベントスペースでドイツパンが売っていたので、夜食用にブレッツェルを買う。「ユクサム(6・3)・・・」売り子は韓国語で値段を言ってきたが、分からなかったので、暗算で計算してお金を渡した。

 

       Nソウルタワー ■

 

21時半に東大入口の駅でフラウ・森と合流。これからNソウルタワーに行く。Nは南山(ナムサン)の略らしい。出口6番から出てちょっと歩いたところにあるバス停から黄色い循環バス02番に乗ると、ソウルタワーまで行ってくれる。バス1台通るのがやっと、という細い坂道を歩いている人がけっこういた。終点のバス停から、信じられないほどキツイ坂道をさらに登ること5分、Nソウルタワーに到着した。白くライトアップされていてきれい。こんな夜遅くなのにカップルがたくさんいた。金網に南京錠がいっぱいぶら下がっている。日本のこんな流行まで取り入れなくてもいいと思うんですけど。展望台のチケット(7,000ウォン=約700円)を買って待つこと20分。この間に先ほど買ったブレッツェルを二人で食べる。ラルクのコンサートはとても楽しかったらしい。「韓国のオーディエンスはもう最高!」男の子までもノリノリで、日本語の歌詞だろうが大声で歌い、ペンライトまで元気よく振っていたそうである。フラウ・森は剥がれ落ちていたポスターを大喜びで拾ってきて、おみやげに持ち帰っていた。見せてもらうと、ハングルで「ラルク・アン・シエル」と書いてあるのは判読できた。

整理番号順に呼ばれてエレベーターで展望台に上る。タワーの高さは236mと、東京タワーや六本木ヒルズと変わらないくらいだが、南山自体が海抜243mで、そこから見るソウルの夜景は一見の価値ありである。よく見ると窓ガラスに地名とそこまでの距離が書いてある。東京までは1157.99km、ベルリンまでは8142.17km・・・。遠いな。帰りも02番のバスで山を降りた。今度来るときは、ケーブルカーに乗りたいな。

 

ライトアップされたNソウルタワー

展望台から見た夜景(明洞方面)

 

 

3日目  汗蒸幕、南大門、ショッピング

 

       汗蒸幕 ■

 

最終日は朝から雨。午前中は、汗蒸幕エステだ。韓国に来たならやっぱりやらないとね!

時間がないので基本コースだけにした。黄土サウナ、蓬サウナ、麻袋をかぶって汗蒸幕。(でもそんなに熱くは感じられなかった。)蓬風呂のあとは、アカスリだ。黒のブラジャーに黒のショーツ姿(←なぜ水着じゃなくて下着なのだろう)のアジュンマ(おばさん)が、芋を洗うようにゴシゴシと垢を擦ってくれる。思ったほど垢は出なかった。仕上げにココナッツオイルでマッサージしたので、体中が甘い香りに包まれた。アカスリの後は黄土でパック。「土人メイク」のフラウ・森の顔に思わず笑ってしまったが、こっちの顔も相当なものだったろう。

終了まで約1時間。鏡に映る自分は、なんかこう、色が白くなった気がした。終わったあとでチマチョゴリを着てポスターなどをバックに写真撮影も出来るが、やっぱり本物の宮殿をバックに撮るのとは雲泥の差だ。ちょっと高いかもしれないけど、景福宮で写真を撮っておいてよかった。他のグループの人たちと一緒に、南大門の前まで送ってもらう。

 

       南大門 ■

 

南大門(ナンデムン)は正式には「崇礼門」といい、城郭の正門として1398年に建立、韓国最古の木造建築物として国宝1号に指定されていた。2005年に周囲に広場ができて市民や観光客の憩いの場になっていたが、それが裏目に出て、2008年2月10日、楼閣の二階部分に忍び込んだ不審者によって放火された。犯人は、「警備が手薄だったから南大門に目をつけた」という。

かつてのソウルの「顔」は、今では工事用の囲いに覆われていた。一部が透ける素材でできており、内部の様子がわかるようになっている。足場がびっちり組まれていた。もっと大きいイメージがあったが、小さく思えたのはそのせいだろうか。

工事用囲いに覆われた南大門

内部をのぞいてみるとこんな感じ

 

放火された直後は、哀悼する市民が大勢訪れていたそうだが、四十九日を過ぎたころからぱったり「客足」が途絶えたそうだ。2013年に再建される予定、と聞き及んでいるが、そのための寄付がなかなか集まらないという。いずれにせよ、一日も早い再建を望む。

気が付けば11時半である。ホテルには1時までに戻らなくてはならない。大急ぎで買い物を済ませなければ!南大門市場に分け入り、親から頼まれた高麗人参のカプセルを買った。雨上がりの日曜日のせいか人も少なで、「カバンありますよ〜」と日本語で次々と呼び止められた。

 

       明 洞 ■

 

その足で隣の明洞(ミョンドン)駅まで。若者のメッカ、日本で言ったら渋谷といったところか。(でも写真を見て(横浜の)伊勢崎町みたい、と言う人もいたが。)若者といえば、ティーンエイジャーがそろいもそろって、厚い前髪を目の上で切り揃えた髪型なのだ。女の子のみならず、男の子まで。昨年訪れた釜山でもそうだった。流行なのか、校則でそうしているのか・・・。

 

 フラリと入った韓国の自然派化粧品の店THE FACESHOPでマスクシートをまとめ買い。だって1枚200円ですよ?後日談になるが、使ってみると香りはキツイけどけっこう効いて、モチモチの肌になった。おまけでもらった化粧水と乳液もなかなかよかったし、韓国美容、侮りがたし。

 それから「おばがイ・ビョンホンのファン」というフラウ・森とともに、韓流スターのブロマイドやグッズを売る店に突撃。ビルの地下にあり、グッズや写真で天井まで埋め尽くされている。原宿とかにありそう。フラウ・森は、おばさんのためにCDケースとメモ帳を買った。誰が一番人気なのか、と尋ねたら「その日によって違う」とのこと。・・・その日の売り上げじゃなくて、全体的に誰が1番人気あるのかを聞きたかったのだが。

 さらに行くと若い女性が吸い込まれていく化粧品の店を発見。ETUDEHOUSEといって、TVで紹介されて、日本でもちょっとした人気らしい。中に入るとピンク一色、サンリオショップでラブリーなパッケージのコスメを売っているって感じ。若い女の子向けなので値段も手頃、マスクシートが1枚100円からあったので、それをバラ撒き用のおみやげに買った。30枚ほどまとめ買いすると、こちらでもおまけをたくさんくれた。

 戦利品を手に、ホテルに戻ったのはジャスト13時。バタバタと荷物を詰め込み、チェックアウトをしてロビーで迎えを待った。やってきた金さんが、私のペンケースを差し出した。もう一度探したらあったそうだ。隅っこに挟まっていて見えなかったらしい。よかった〜。空港へ向かう道路は渋滞していたが、それでも1時間程度で到着した。チェックインしたあとはすることもなく、免税店を冷やかしたりしても時間が余った。金浦空港も、今は羽田と上海にしか飛んでいないのだろうか。それにしても狭い。昔はよくこれで国際空港、韓国の「空の玄関口」なんかやっていたな。

 今回ひょんなことで決まったソウル行き、しかも私にしては珍しくふたり旅だったけど、ひとりだと絶対やらないだろうな、って言うことが体験できて面白かった。一人だったら、夜中にソウルタワーに行かないし、エステにも行かなかっただろう。誘ってくれたフラウ・森に感謝である。

 16:35、ようやく機上の人となった。機内食にはやっぱりキムチが付いていた。