□□エイプリルフール□□
〜アリスSIDE〜
響 ヒロ
「どないしょう……」
呟いて、私は本日何度目かのリビング一周旅行への一歩を踏み出した。
***
事の起こりは午前中もあと少しで終わろうかという、そんな時間にかかってきた1本の電話。
「はい、あり―――」
『一体何回呼び出しさせるつもりやの、このアホ息子!』
取った受話器から名乗る間もなく飛び出してきたのはおかんの声で。
「まだ5回くらいやろ。短気は損気やで? 10回までのコールは認めなあかん」
『もう20回も呼んどるわ!』
「……」
さすがにそこまでくると、鳴らす方も鳴らす方だ。
仕方ないではないか。昨晩は書き出した小説が近年稀に見るほどの絶好調で、寝ついたのは朝の8時も過ぎた頃だったのだ。
『生粋の大阪人やと思うとるなら、もっとちゃっちゃと行動せんかい! まったくもう、あんたみたいなグズたらした息子はよう知らん。親の顔が見たいわ』
「そんなら鏡見ればええやん」
『ああ言えばこう言う。口ばっかり達者になってもう』
言うことは更に目茶苦茶。
「……で、なんの用や?」
『用がなかったら息子に電話もしたらあかんの?』
「そうは言うてへんよ。せやけど、用もないのに電話してくるほど物好きでもあらへんやろ」
『可愛げのない子ぉやね。ま、ええわ。有栖、来週の土曜空けとき。どうせいつでも暇やろうけど』
「いくら親かて失礼やん。なんや急に」
『見合いや』
「は?」
『だから見合いや。ただ話持って来ただけじゃあんた、いつもみたいにのらりくらり躱すだけやろしな。しっかり約束つけといたわ』
「な……っ」
なんでそない勝手な! と言いかけてピンときた。
ははぁ〜ん。
「ええで。その見合い、受けたるわ」
『……えらく素直過ぎて、なんや気味悪いわ。ま、せっかくその気になってくれたんやしな。ほな、来週の土曜日。ロイヤルホテルに10時や』
「リーガロイヤル?」
天皇とかの偉い人(?)も利用する老舗のホテルだが、数年前に名称が変わったのだ。
「またえらいキバリよったな」
『そりゃそうや。いくら若う見えるいうたかて、実際は崖ッ淵。力入れな』
「崖っ淵とはなんや、崖っ淵いうのは」
正直、その辺りまでは、今年は話が偉く凝っているな、と感心して聞いていただけだったのだが。
『そんなわけやし、みっともないから遅刻なんてしてくるんやないで。ああ、そうや。あんたちゃんとしたスーツ持っとるんか?』
やっと、なにかがおかしくないか、と気がついた。
「ちょ、ちょっと待った、おかん!」
『なんや? 新調する金がないから今更なしにしてくれ言うても聞く耳持たんで』
「そこまで売れてなくないわっ―――って、そうやなくて、まさかと思うけど、見合いってマジか? ほんまのほんまに見合いなんか!?」
『せやから、さっきから言うとるやないか。まだ寝ボケとるんか? いっくら自由業かて、朝晩の区別くらいしっかりせんとあかんで』
「ちょっと待てって。ほな、俺を騙そうとしたんじゃなかったんか!?」
『騙すてなんやねん。親を嘘吐き呼ばわりするんか?』
「ちゃ、ちゃうねん。やっておかん。今日はエイプリルフールやから……やから、てっきり……」
『このアホンダラ〜〜っ 今日はまだ3月31日や〜〜〜っ』
―――おかんの言う通り。
今日はまだ3月31日だった。
『今更取り消しなんて戯言は聞かん。そのぼさぼさの頭、しっかり綺麗にしとくんやで。ええな!!?』
***
「今日の夕飯はにら餃子スープとにんじんのきんぴら。デザートはプリンがええなぁ。
もちろん、手作りやで。カラメルソースはたっぷりな」
『アリス……』
「そんな情けない声出してもあかん。向こう3ヶ月、君はドレイや。門限は8時。遅刻は一切認めん。ちゃんとチャイム鳴らすんやで。それが無事済んだら鍵は返したる」
『アリス〜〜〜』
こうして俺は、今年のエイプリルフールは完全勝利を収めた。
「四月ばか」 〜火村SIDE〜
初出しは2000年3月、ケセラン パサラン様
キリ番リクエストでしたっけ? たまき作「四月バカ」(火村SIDE)との競作です。
どちらを先に読むかで、1粒で2度美味しいシロモノ(!?)です。(2002/10)