バン・ドゥーシュ
(Bain Douche)



 千代田区という区名は、江戸城の別名「千代田城」にちなんだものである。そして、「千代田」の名は、江戸城築城の適地を探しにきた太田道灌が、耳にした近隣の3村の名の中から、「末々繁昌疑ひなし。」と考えて採用したものであるらしい。
 一方、麹町という地名は、このあたりに数件の麹屋があったことに由来するとの説と、府中への道筋であったことから国府路(こふじ)が訛ったものであるとする2説がある。
 さて、今回紹介する銭湯は、千代田区にある銭湯バン・ドゥーシュである。実は、千代田区にはわずかに4件の銭湯しかない。43ヶ所もの銭湯がある隣の台東区とは好対照である。それもそのはず、千代田区は東京の中心地、いや日本の中心地と言えるオフィス街、官庁街、国会議事堂、最高裁判所、そして皇居があるからだ。
 地下鉄半蔵門線・半蔵門駅から徒歩約2分でバン・ドゥーシュの前に到着する。バン・ドゥーシュはマンションの1階に入居する小さな門構えの銭湯だ。玄関は、半地下のような場所にあり、正面がフロントとなっている。
 フロントで「暑いですね。」と言って千円札を差し出すと、フロントのおばさんが、「走るのかい?風呂だけかい?」と意味不明のことを聞いてくる。思わず「いやー走る体力なんてありませんよ。」と答えると、「風呂は空いているよ。下駄箱はあまり空きがないけどね。」と一言。何のことだかさっぱりわからない。
 この段階では、この銭湯にはフィットネスジムが併設されているのだろうくらいに考えていた。しかし、脱衣室に入っても、浴室が見えるだけで、フィットネスジムへの入口は見えない。
 脱衣室は非常に狭く、標準的な東京の銭湯の3分の1くらいの広さしかない。もちろん浴室も同様に狭い。日本の中心地・千代田区にある銭湯なのだから、これは致し方ないのかもしれない。
 脱衣室には、四角いロッカーが20個、スーツを入れることができる細長いロッカーが6個、籠が6個、ドライヤーが1個(利用料10円)、洗面台が1基あり、マッサージ椅子、飲み物類の販売はない。
 浴室に入る。浴室もかなり狭い。恐らく、今まで訪れた銭湯の中で一番狭い浴室だろう。浴室には、洗い場が8ヶ所あり、浴槽は1槽のみ。浴槽の定員は最大4人程度だろう。洗い場は、銭湯には珍しく、サーモスタット混合栓になっており、ボディーシャンプーとリンスインシャンプーも完備されている。このボディーシャンプーはいい匂いがした。浴槽湯温は41℃を示しているが、かなり熱い。
 さて、浴室から脱衣室を見ていると、この銭湯の客層がだんだんわかってきた。客のほとんどはスーツ姿。つまり、このあたりで働いているサラリーマン諸氏であり、地元民ではないと思われる。
 彼らは、スーツを脱ぎ捨てると、Tシャツ、短パン姿になり、運動靴を履いて脱衣室から出て行ってしまう。そう、やっとここで判明したのである。フロントのおばさんの言ったことの意味が。
 入浴後にフロントのおばさんに確認したところ、この銭湯の常連客の多くは、皇居の周りを仕事帰りに走っていくサラリーマン・ランナーズだったのである。彼らは、まずフロントで入浴料を支払い、脱衣室でジョギング姿に着替え、皇居を走る。その後、銭湯に戻ってきて、一風呂浴び、自宅へ帰るというわけなのだ。フロントのおばさんによれば、このように脱衣室のロッカーをサラリーマン・ランナーズに貸すというサービスは最近開始したとのことであるが、どんどん客が増えてしまったのだという。これぞ都会の銭湯の新たなマーケティング戦略、新たな銭湯の形態であろう。
 ちなみに、バン・ドゥーシュという屋号の意味は、フランス語で、「シャワー」あるいは「浴びる」という意味なのだそうだ。
 サラリーマン・ランナーズにとって、ここは、思いっきり都会の風と汗と湯を浴びることのできる、すばらしい憩いの場なのだ。


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
東京都千代田区麹町1-5-4 400円 × × 15:00〜23:30 日曜日、祝日

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2005年6月21日(火)



 
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