木村湯(廃業)
(Kimurayu: closed down)



 蛎殻(かきがら)という地名は、江戸の南町奉行・大岡越前守が、耐火の目的でカキの貝殻(蛎殻)で屋根に葺くように奨励したため、この一帯の家屋の屋根がカキの貝殻で葺かれていたことに由来するとのことである。

 今回紹介する銭湯は、木村湯。東京都中央区の日本橋という大都会の中心地にある銭湯である。東京都浴場組合のHPによれば、木村湯は「レトロなセントウ」と紹介されており、古い銭湯が好きな私としては、待ちに待ったうれしいセレクトである。

 地下鉄東西線・茅場町駅から茅場橋を渡り、5分ほど歩くと木村湯である。木村湯の玄関は小ぢんまりとした感じであるが、たくさんの植木鉢が並べてあり、実に華やかでもある。

 心を躍らせながら中へ入る。木村湯は、思っていた通りの古い銭湯であった。ピカピカに磨かれた床、古い木製の建具の数々、骨董級のマッサージ椅子、大きな扇風機、重厚な折上格子天井、古い額、招き猫。期待は裏切られなかった。もう稼動はしていないだろうと思われるかみそりの自動販売機は一体いつのものなのだろうか。

 脱衣室には漫画や書籍が多数置いてあり、番台様に一言断れば、自由に借りられるのだという。書籍で目に付いたのは、街道、寺院、登山に関するものが多いことだった。

 ロッカーの数は62個。他に大きな籠も20個ほどある。脱衣室には、ちょっと暗いが小さな坪庭もあり、変わったものでは、兎がいる。もちろんちゃんと飼育檻に入っている。不思議なことに、いやな匂いは全くしなかった。

 浴室に入る。浴室は極めてノーマル。洗い場が22箇所。浴槽は浅風呂と深風呂。シャワーブース、水風呂、サウナ、薬湯はない。

 この浴槽の湯温は、なんと45.5℃もあった。番台様は私が関西人であると悟ったのか、「かなり熱いですよ。でも薄めていただいても構いません。誰も文句言いませんから。」と声をかけてくれた。最近の銭湯では、自動制御設備が整っており、注水してもしばらくするとすぐに湯温は元通りに回復するのだ。

 本当に大江戸の銭湯の湯温は高くていつも閉口するのだが、この謎が最近解明した。理由は2つあるらしい。まず一つ目は、かつては条例で、「湯温は42℃以上」と定められていたからだ。従って、銭湯側はある程度余裕を見てさらに湯温を高くしていたというわけである。もう一つは、高温の湯船に入ると、脳内麻薬と言われる「エンドルフィン」の分泌が増加し、恍惚状態になるから、というものらしい。恍惚の江戸っ子。これが大江戸の常識なのか?

 驚いたことに、東京都浴場組合の調査によれば、銭湯の湯温は、「適温」「昔よりぬるくなった」と感じている人がほとんど(60%)で、熱いと感じている人は少数派だということだ。まいった、まいった。

 さて、木村湯の話に戻すと、壁画は「平成16年8月25日 精進湖」と書かれた富士山。他にタイル画が3枚もあり、富士山が2枚、水車小屋が1枚となっている。

 古い銭湯が好きという私の話に、番台様は「懐古趣味だけでは銭湯はやっていけない。もっと時代の流れに対応したものにしていかないと立ち行かなくなってしまう。」と、現状には決して満足していないようであった。ではなぜ、銭湯の客はこうも減ってしまったのかというと、「今の親の世代が子供の頃銭湯を体験していないから、今の子供にも銭湯を教えることができないのだろう。」とのことであった。ただ、「中央区では銭湯に理解のある諸政策を実施しており、他の区とは大分違うようだ。行政として住民を増やしたいという意向があるのだろう。」とも付け加えていた。実際に、行政と銭湯が協力して、湯銭不要の無料開放デー「ふれあいデー・お風呂の日」を定期的に開催しているようだ。銭湯ビジネス復活の時を期待し、かつ応援を続けたい。

(番台様、取材へのご協力ありがとうございました。)


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
東京都中央区日本橋蛎殻町
1-19-2
400円 × × 15:30〜24:00 水曜日

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2005年6月3日(金)



 
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