鶴の湯
(Tsurunoyu)



 渋谷区内の金王八幡神社の社伝によると、渋谷区の区名の由来は、平安時代末に源義家の部下・河崎重家が、京都の御所に侵入した賊を捕らえた時、その賊の名が渋谷権介盛国であったことから、堀河の院より「渋谷」の姓を賜り、その後重家の領地が渋谷の名に変わったからという説がある。一方、一帯を流れる川の水が赤さび色の鉄分を含んだ渋色で、「しぶや川」と呼ばれていたことによるという説もある。さらに、「塩谷の里」が訛ったとか、渋谷川流域の低地が「しぼんだ谷あい」であったので、それが「しぶや」に転じた、など多数の説があり、真相は定かではない。
 一方、千駄ヶ谷の千駄とは、この地域で千駄(1駄は135kg)の萱(屋根材の一種)がとれると言われるほどの一面の萱原、茅野であったからという説、米の代わりに千駄の萱を納める事になっていたからという説、「千駄焚き」という古式の祈祷をしたことによるという説など、諸説があるらしい。
 さて、今回紹介する銭湯は、渋谷区・千駄ヶ谷にある鶴の湯である。JR山手線・代々木駅より徒歩約10分。「千駄ヶ谷グリーンモール」と呼ばれる通りにその鶴の湯はある。しかし、このモール、別に商店街という雰囲気ではない。新しいビルが立ち並んだ通りであり、古い鶴の湯の建物がひときわ目立つ。
 今日は久しぶりの銭湯である。今週は親知らずを抜いたので歯が痛かったし(今でも少々痛む)、仕事は忙しかったし、雨も多かったので、こうなってしまった。前回銭湯へ行ったのは先週の土曜日であるから、6日ぶりということになる。「全然久しぶりではないじゃないか。」と言われそうであるが、それだけ私の生活に銭湯というものが深く入り込んでいることの証拠でもある。
 今まで行った東京の銭湯の数を数えてみれば、この鶴の湯で67箇所目であった。銭湯にあまり興味のない方から言えば、「そんなに銭湯に行ったのか?」ということになろうが、深田久弥の「日本百名山」に比べれば、何のことはない。まだまだ序の口である。
 さて、この鶴の湯、外観はたいそう古めかしい。当然中身も古い。脱衣室は、建具がまだ木製のままであり、大きな壁掛け古時計(武田工務店の刻印がある)や古いお面の彫刻(安達工務店の刻印がある)がある。
 番台で湯銭を払うと、番台様がロッカーの鍵をくれた。鶴の湯のロッカーは3種類あり、通常の四角いロッカー(36個)、通常のロッカーの倍の大きさのある細長いロッカー(16個)、プライベートロッカー(18個)となっている。もらった鍵はこの細長いロッカーであった。私が大きなカバンを持って入ってきたので、気を利かしてくれたのか、たまたま空いていたからそうなったのかは知らないが、なんとなく特別待遇された気分である。やったぞ!
 脱衣室には、マッサージ椅子、石鹸類の販売、手ぶら入浴セット(100円)、飲み物類の販売、坪庭がある。
 番台様は、気の良さそうな方であったが、番台様の写真撮影は断固として拒否された。番台様は結構写真撮影不可という方が多く、いつも残念に思ってしまう。私としては、普段の姿の番台様を写真に納めたいところなのだが、当の番台様はそれが「いや」ということらしい。幸いなことに、館内の写真撮影には許可が下りた。感謝。
 浴室は、至ってシンプル。洗い場は21箇所、シャワーブースが1箇所ある。椅子は板バネのようなサスペンション椅子、洗面器は黄色い無地のもの。壁画はオーソドックスに富士山である。浴槽もオーソドックスで深風呂と浅風呂のコンビ。湯温は44℃。東京都浴場組合のHPのこの銭湯の紹介にある通り、「熱めの湯」となっている。正確な紹介だが、ぬる湯が好きな私には辛いところだ。
 そこで、私はいつもの通り半身浴を取り混ぜながら、深風呂のステップに腰をかける。常連客の一人は、足だけ浅風呂につけて突っ立っている。浴室を出ると、素っ裸のまま坪庭で歯を磨いている常連客もいる。番台様は、番台のまん前に置かれたTVに見入っている。これらすべてが鶴の湯の時間なのだ。
 渋谷と言えば、ど派手な若者が闊歩するお洒落で凶暴な町というイメージがあるが、それはごく限られたエリアだけの話だ。千駄ヶ谷にある鶴の湯には、昔からの変わらぬ時間が流れていた。
(番台様、取材へのご協力ありがとうございました。)


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
東京都渋谷区千駄ヶ谷4-16-4 400円 × × 15:30〜23:30 月曜日

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2005年7月8日(金)



 
 戻る