稲荷湯
(Inariyu)



 神田の地名の由来は、この地が「神に供える稲を作る田」という意味の「神田(みとしろ)」が、「かみた」から「かんだ」へと変化したものだそうだ。そして、内神田とは、神田川より江戸城側の地区を指している。
 今回紹介する銭湯は、千代田区・内神田の稲荷湯だ。大手町、丸の内という日本の中心地から、徒歩圏内にある銭湯である。東京駅から稲荷湯へ向かって外堀通りを歩いていくと、高速道路をくぐった鎌倉橋のあたりから急激に町並みが変わることに気づく。大手町のあたりは大規模なビルが多いが、鎌倉橋から先は、中小規模のビルばかりだ。
 稲荷湯の屋号の由来は、恐らく鎌倉橋の先にある「神田鎌倉町・御宿稲荷神社」からとったものだろう。稲荷神社はビルの谷間にある小さな神社だ。
 稲荷湯の前まで来ると、玄関に人だかりができている。15人ほどがフロントから列を成しているではないか。これはびっくりである。列に並ばないとは入れない銭湯なんて聞いたことも見たこともない。しかもである。その人達は、どれもこれも20代の美男・美女ばかりなのである。これは一体、、、。
 その中の一人が言った言葉ですべてが判明した。「靴は持って入らないでください、と怒られました。」彼は、レジ袋に入った運動靴を玄関の床の上に置き、他の人もそれに倣っている。ここは、皇居の廻りをアフターファイブに走るサラリーマンランナーズ、OLランナーズのたまり場になっていたのだ。
 彼らは、会社帰りにこの銭湯へ寄り、脱衣室で走る格好に着替えをしたら、稲荷湯の前の公園で準備体操を開始し、ほどなく走り出す。走った後はもちろん銭湯で一風呂浴びて帰路につく、というわけである。
 このおかげで脱室のロッカーは空きがなくなってしまい、ランナーズではない普通の常連客はかなり迷惑を蒙っているようだ。しかし、フロント様は良く心得ている。客をひと目見ただけで、その客が銭湯だけを利用するために来たのか、ランナーズなのかを判別し、前者に対しては、特別に確保しておいたロッカーの鍵を渡すという風に差別化を図っている。もちろん私はたちどころに前者に分類された。私のような好男子をなぜ前者に分類したのか。詳しくは不明である。
 ランナーズの中には、ロッカーが使えないことを見越して、折りたたみ式のコンテナ、小さくたためる大きなスポーツバッグ、あるいはプラスチック製の籠を持参している強者までいる。
 フロント様によれば、ランナーズ客の多さには波があるのだという。季節による波、トレンドによる波があり、常に平日の夕方に混雑するわけではないようだ。
 さて、浴室の紹介をしよう。浴室は、洗い場が15箇所、シャワーブースが1箇所であり、通常の銭湯よりは小ぶりだ。浴槽はL字型になっており、奥には床の間のような場所があるので、湯からあがって休憩することもできる。湯温は44℃。かなり熱い。
 稲荷湯を出た私は、今度は神田駅へ向かう。すると途中に「出世不動尊」なるものがあるではないか。稲荷神社に出世不動尊か。今日は縁起がいいことずくめだ。別にのし上がりたいとは思わないが、他人から評価されるのは悪いことではない。
 6月は最も嫌いな月の一つである。なぜなら、6月は湿っぽい季節だし、祝日が1日もないからである。稲荷湯のランナーズ達は、このいやな季節を吹き飛ばすエネルギーを持っていた。それにしても、美男・美女が多かったなあ、、、。


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
東京都千代田区内神田1-7-3 450円 × × 14:50〜24:30
(祝日は14:50〜22:30)
日曜日

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2008年6月



 
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