シュウ酸について


はじめに

野草採集する際に幾つか注意する点があります。 除草剤や殺虫剤で汚染されていないか、排気ガスなどがかかっていないかなどは重要な判断基準になります。 また、シュウ酸成分が含まれる野草は避けるということも野草を選ぶ重要な基準のひとつといえます。 このような認識は一般的なリクガメ飼育の知識としてほとんどの飼育者は知っていることですが、ではなぜシュウ酸がリクガメの餌に適さないのでしょうか。


シュウ酸とは

植物に含まれるシュウ酸には水溶性シュウ酸塩と不溶性シュウ酸塩とがあり、主に植物によって含まれる成分は変わります。まずシュウ酸がリクガメの餌に適さない一番の理由はカルシウム吸収を阻害する成分を含むからです。 水溶性のシュウ酸は体内のカルシウムと結合し、不溶性シュウ酸カルシウムを生成します。 不溶性シュウ酸カルシウムは尿と一緒に排泄されてしまうため折角摂ったカルシウムもシュウ酸成分によって体内に取り入れることができません。 不溶性のシュウ酸も同じくカルシウムを排泄する働きがあります。

野生に生きるカメたちは荒野に咲く沢山の野草の中からシュウ酸や毒性分を含む野草を見分けていると考えられます。 飼育下でも個体差こそありますが見分ける能力を持つ個体もいます。 しかしながら隔離され、限られた餌のみで生かされている飼育下では何でも食べてしまうという傾向になりますので、餌の選別はカメに任せず飼育者がシュウ酸や毒性成分を含む野草を与えないように気をつけなければなりません。 つまり野草を給餌の中に取り入れるのであれば、野草の知識を学ぶことは飼育者としての義務ではないでしょうか。 

シュウ酸を含む野草として有名なところではタデ科のスイバ、イタドリ、カタバミ、ギシギシ、アカザなどが挙げられ、特に茎、根、球根部分にシュウ酸成分が多く含まれています。 こられの野草は他の野草に比べてシュウ酸塩含有量が多いというだけであって、ほとんどの野草には少なからずシュウ酸成分が含まれています。 オオバコやタンポポにも決して少なくないほどのシュウ酸は含まれています。 つまり、シュウ酸とは摂取する量によって害を及ぼす成分であって、通常の給餌の中でカルシウムが摂れているのであればシュウ酸成分を少量与えても問題は生じないといえます。

 

野菜に含まれるシュウ酸

野草以外でも我々が食べる野菜にもシュウ酸は含まれています。 以下は米国USDA(農務省)が出している各野菜100g中に含まれるシュウ酸含有量リストです。 それぞれの数値を見比べてシュウ酸を多く含む野菜を頭の片隅に入れておくことも必要かもしれません。

Vegetable

Oxalic acid
(g/100 g)

Amaranth アマランス(ハゲイトウ)

1.09

Asparagus アスパラガス

 .13

Beans, snap 枝マメ

.36

Beet leaves カエンサイ、テンサイ

.61

Broccoli ブロッコリー

.19

Brussels sprouts 芽キャベツ

.36

Cabbage キャベツ

.10

Carrot ニンジン

.50

Cassava タピオカ

1.26

Cauliflower カリフラワー

.15

Celery セロリ

.19

Chicory チコリ

.21

Chives ナガネギ

1.48

Collards コラード

.45

Coriander コリアンダー

.01

Corn, sweet とうもろこし

.01

Cucumbers キュウリ

.02

Eggplant ナス

.19

Endive エンダイブ

.11

Garlic ニンニク

.36

Kale ケール

.02

Lettuce レタス

.33

Okra オクラ

.05

Onion ネギ

.05

Parsley パセリ

1.70

Parsnip パースニップ(サトウニンジン)

.04

Pea エンドウマメ

.05

Pepper トウガラシ

.04

Potato ジャガイモ

.05

Purslane スベリヒユ

1.31

Radish ラディッシュ

.48

Rutabaga カブカンラン 

.03

Spinach ホウレンソウ

.97

Squash

.02

Sweet potato サツマイモ

.24

Tomato トマト

.05

Turnip カブ

.21

Turnip greens アオカブ

.05

Watercress クレソン

.31

一般的な野菜で言えばパセリ、ホウレンソウ、ネギなどが多くシュウ酸成分を含んでいます。 その次は枝マメ、芽キャベツ、ニンジン、ラディッシュなども含まれているため注意が必要でしょう。 
しかし、この数値はあくまでシュウ酸含有量を示すものであって実際にカルシウム吸収を阻害する数値ではありません。 例えばパセリなどはカルシウム含有量自体が多いのでカルシウム吸収率はそれほど低くはなく、逆にニンジンなどは糖質も多く含まれるためにカルシウム吸収を下げることになります。


糖質について

同じくカルシウム吸収を阻害するものとして糖質が挙げられます。 糖質を多く含む食品でリクガメの餌として与えがちなのはやはり果物でしょう。 果物は嗜好性が高く、ほとんどのリクガメは甘く熟れた実を無条件で口に運びます。 そもそも自然界では甘い物を口に出来る機会な滅多にあるわけではなく、花に含まれる微妙な蜜や熟れて落ちた果実も運がよければ食べられる程度だといえます。 雑食傾向が強い熱帯地方に生息するアカアシやキアシでさえ日頃、口にする果実はそれほど糖質の高いものではありません。つまり、野生のリクガメが生きていく上で糖質は必要のない栄養素だといえます。
カメが喜ぶからという理由で果物ばかり与えていれば糖質過多摂取が起こり、それはカルシウムを吸収することを妨げる原因になるというわけです。 極端な話ですが果物ばかり与えていれば、低カルシウム血症や骨疾患になる可能性が生じるわけです。

ではリクガメにとって果実は毒なのでしょうか? 答えはNoです。 糖質は必要ないものですが果実には糖質以外にビタミンが豊富に含むものもあり副食としてバランスよく与えればプラスに働く場合もあります。 リクガメに果実はあえて与える必要はありませんが、もし与えるなら少量を与えるようにしましょう。


シュウ酸の見分け方

見分ける一番の方法は、まず毒成分がないかということを調べた上で実際に葉、茎を齧って樹液を口に含んでみることです。このとき酸っぱかったり、舌に渋さを感じたらシュウ酸を含んでいると考えるべきでしょう。 しかし、この方法はある意味危険なやり方ではありますので必ず植物図鑑等でその種を特定し、毒成分を含んでいないかどうかということを確認しましょう。

また、シュウ酸は肌に触れると痒みを生じる場合があります。 これは成分の中の
針状結晶が肌に直接刺激を与えるからです。 また、胃に入ったシュウ酸は粘膜である胃壁を傷つけ、炎症を起す原因にもなります。 
以前読んだ本の中に毒成分を見分ける方法として肌の柔らかい部分に草の樹液をこすり付けるという方法を紹介していました。 私自身この方法を使っていますが、あまりお勧めできる方法とはいえません。 野草の中には少し葉に触れただけでひどいアレルギー反応を起させる種もありますので。


シュウ酸によるその他の障害

シュウ酸はカルシウム吸収を阻害するだけではありません。 摂取する量が多い場合は消化器障害と呼吸困難を引き起こし、その量によっては、昏睡や死亡に至るときもあります。 このようにシュウ酸自体深刻な中毒症状を起す原因にもなり、たとえ一時的に回復したとしても肝臓と腎臓に致命的な障害が残る場合もあります。 リクガメにとって腎臓、肝臓という臓器はとても重要な働きをする場所で、この部位での疾患は直接死に結びつきます。 海外の飼育書や医学書では如何に腎臓肝臓に負担を掛けないようにするかということが飼育の重要なポイントになると書かれています。

もう一つ怖い要因があります。 シュウ酸成分を多量に摂取すると体内からカルシウム成分を奪い不溶性のシュウ酸カルシウムとなるということは書きましたが、これが原因で尿路結石になる場合もあるということです。 結石成分は酸化の最終産物ですので特殊な微生物の他は代謝、分解することはできません。 つまり一度作られたものは、蓄積されることになります。 

人間の場合、尿路結石の8割はシュウ酸とカルシウムの結合によって起こるとされており、その吸収システムは摂取されたシュウ酸が小腸で吸収され血管を通り腎臓へ運ばれます。 そして腎臓内でカルシウム成分と結合し結晶化します。 これが腎臓結石です。 この結石が尿管に入ってくると尿路結石となります。 
リクガメの場合も同じく、まずは腎臓で結晶化が起こり、その後、尿管に降りてきて尿路結石となります。 リクガメはむしろシュウ酸成分による結合よりも、タンパク質の過剰摂取や水分不足により結晶化が進むことが多いといえますが、数ある結石の原因の中で少なくてもシュウ酸がその原因の一つになるということは覚えておくべきでしょう。 

「カルシウムを多く摂ると結石になり易い」という従来の考えは全くの間違いであってカルシウムをたくさん摂れば腎臓まで吸収されずに腸内でシュウ酸と結合し、不溶性のシュウ酸カルシウムとなり便として排泄されます。 つまりシュウ酸を多く摂った場合はその分たくさんカルシウムを摂ることで身体の負担は軽くなるということになります。