脚本は倉本聡さん。宮本さんは全11話を担当。ディレクターが全てを撮影するのは稀なことです。倉本さんと話し合ったのは、「ウソだと思うことはやらない」こと。心のウソです。だからエキストラ、台詞のない人も全て役者。でないとリアルになりませんから。すると当然役者の芝居の質も変わっていく。
そういうことを緒形拳さんと中井貴一さんに話すと、彼らは回りをそういう雰囲気に巻き込んでいくことができるんですね。
緒形拳さんは気持ちを内側にためてためてというふうにやっていらっしゃった。過度の芝居をやらないことで伝えたいというのが、緒形さんのやりたかったことでした。
でもプロデューサーの要求ほとんどこの逆。このシーンは涙がほしいというふうに分かりやすいものを求めがち。「一切そういうことをするな」というのが倉本さんなんです。だから伸び伸びやれましたね。
ついうまくいっていないとごまかしてしまう。こうしておかないと次につながらないなとか、ここで強調しておかないとだめだとかごまかす手を使うのですが、それは一切やめようということです。
倉本聡さんも私もウソはつきたくないということが強くある。むろん倉本さんの台本にはその必要性はないし、もう撮影前に完成していましたから充分時間はある。役者さんが人として自然に動ける状態を作りたいなと思っていました。
普通ドラマでは役者さんは現場に入って来ると、ここで役になって仕事をするんだという感じになるのですが、そういうことではないものにしようと、あらゆることを調べて役者さんに体験させ、役と自分が一緒になるようにしてもらったのです。
麻酔医役の中井貴一さんには実際の手術に立ち会ってもらいました。おかげで本当に麻酔ができるほどになって、手許を映すときも吹き替えなしで撮れるくらいに勉強しました。
中井さんの娘役・黒木メイサちゃんの場合も、末期ガンで在宅のケアを受けているお宅に一緒に行きました。その方は亡くなりましたが、その方や家族と話をするなど、なるべく本物を見られるチャンスをつくったのです。むろん私もそこを見たかったからですが。
そういうことをしているとスタッフも含めてみんなが自然とそういう気持ちになるというか、伝わっていく。するとそういうことを率先してやっていく役者やカメラマンが出てくる。すると、若いスタッフもつられてやり始め、熱がこもってくる。いいものが浸透していきましたね。
実は台本が撮影前にできているなんて、連続ドラマではほとんどありません。台本が遅れ、撮影の前日に決定稿が上がってくるなんてことになると、夜中に役者に渡して撮影して次の週には放送するということになってくる。スタッフも寝る暇はないし、役者は台本を読み込むこともできない。楽しんで仕事はできません。みんな言われたことをやるだけです。
ですからこういう形でできるというのは理想に近く、やりたいことを計画できたし、やりがいがありました。 テレビは視聴率をとることにすごく重きを置きますから仕方がないのですが、作品の良さで頑張るよりキャスティングを重視したり、知名度のある原作を使うなど、手堅いものに走りすぎたのではないかと思います。静かな台本が通りにくくなっているし、そういう台本が書ける人もいない。若いプロデューサーはそういうものを作ったこともありません。すると非常に分かりやすい、あらすじだけを埋めていったようなものになっていってしまう。
私もフラストレーションがあっていつもプロデューサーとぶつかりながらやってきました。倉本さんの台本をやるまでは、そういう思いがたまっていたんです。スタッフも同じで、つまんない台本はつまんないのです。
だからスタッフも私ものどが渇いていたときにどっと水が来たという感じで、もう喜んで仕事をしましたね。
今やどんなもので視聴率がとれるか目安のようなものがなくなり、崩壊してきています。むしろいいことで、基本にかえってほしい。「風のガーデン」のことを通して考えてほしい。
またいい作品には視聴者の方もぜひ応援してほしいですね。
インタビューは「ウイメンズ・ステージ」28号に詳しく掲載。